フリーエージェント(FA)とは
フリーエージェント(FA)とは、どの球団とも自由に交渉・契約できる権利を指す。プロ野球選手は基本的に自身が所属している球団としか交渉できないが、FA権を取得すれば、他球団とも交渉ができるようになる。
2024年はこの制度を利用するため、巨人・菅野智之、広島・九里亜蓮の2人が海外FA権を、阪神・大山悠輔と原口文仁、中日・福谷浩司と木下拓哉、ソフトバンク・石川柊太と甲斐拓也、楽天・茂木栄五郎の7人が国内FA権を行使。計9選手がFA宣言した。
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今年もFA権を保有する選手の動向などが連日報じられ、ストーブリーグの話題の中心となっている。それらの報道で目を引くのが、この選手はAランク、Bランクなどランク付けされていることだろう。プロ野球では、FAによって選手が移籍した場合、移籍前に選手が所属していた球団は、移籍先の球団からその選手のランクによって金銭等の補償を受けることができるのだ。
では、そのランクは一体どのようにして決まるのだろうか。
選手のランクはチーム内の年俸順位で決まる
FA選手のランク付けは、移籍前に所属していた球団内の年俸の順位によって決まる(外国人選手は除く)。FAで移籍する選手が日本人選手の上位3位までに入っていたらAランク、4位から10位まではBランク、11位以下の選手はCランクと定められている。
今年FA宣言した阪神・大山悠輔の場合を例にとってみると、2024年シーズンの阪神の年俸ランキングは下記の通りとなっている。
1位 近本光司 3億2000万円
2位 西勇輝 3億円
3位 大山悠輔 2億8000万円
大山はチーム内で3番目となっており、3位以内のため、Aランクに該当するとみられる。
また、甲斐拓也と石川柊太の所属しているソフトバンクの年俸ランキングは下記の通り。
(オスナ 約10億円)
1位 柳田悠岐 5億7000万円
2位 近藤健介 5億5000万円
3位 有原航平 5億円
4位 今宮健太 3億円
(モイネロ 約3億円)
5位 山川穂高 2億7000万円
6位 甲斐拓也 2億1000万円
7位 和田毅 2億円
8位 又吉克樹 3億円
8位 中村晃 1億5000万円
8位 武田翔太 1億5000万円
8位 東浜巨 1億5000万円
外国人選手の年俸は考慮されないため、甲斐はチーム内6位でBランク、年俸1億2000万円の石川は11位以下でCランクに該当するとみられる。
ランクによって変化する補償内容
では、選手ランクによって何が違うのかというと、補償の内容だ。FA制度によって選手を獲得した球団は、旧所属球団へ金銭または金銭+人的補償をしなければならない。その補償内容が以下のように選手のランクにより異なる。
●金銭補償のみ(人的補償なし)の場合
・Aランク
旧年俸の80%の金銭 (2度目以降のFA移籍は40%)
・Bランク
旧年俸の60%の金銭 (2度目以降のFA移籍は30%)
つまり、もしAランクの大山が移籍した場合、その補償として旧年俸2億8000万円の80%である2億2400万円が獲得した球団から阪神へと支払われることになる。
●金銭補償+人的補償の場合
・Aランク
プロテクト外の選手1名+旧年俸の50%の金銭
(2度目以降のFA移籍ではプロテクト外の選手1名+旧年俸の25%の金銭)
・Bランク
プロテクト外の選手1名+旧年俸の40%の金銭
(2度目以降のFA移籍ではプロテクト外の選手1名+旧年俸の20%の金銭)
・Cランク
金銭・人的補償ともになし
Bランクの甲斐が移籍した場合を例にとると、ソフトバンクは人的補償としてプロテクトから外れた選手+甲斐の旧年俸:2億1000万円の40%である8400万円を獲得球団から受け取ることができるというわけだ。
一方、Cランクの石川が移籍した場合は金銭・人的補償ともに必要ない。獲得を目指す球団にとっては身銭を切らずに済むため、Cランクの選手がFA宣言した場合、複数球団による争奪戦となることもしばしばだ。
プロテクトされていない選手はだれでも獲得可能?
FAで選手を獲得した球団は、人的補償で取られたくない選手を28人までプロテクトすることができ、移籍前の球団はそのリストから外れた選手を1人獲得できる。ただし、プロテクト外であれば誰でも獲得できるわけではない。例えば、外国人選手や直近のドラフトで獲得した新人選手は獲得できない。
また、外国人選手もFA資格取得条件を満たせば、FA権を取得可能である。外国人選手がFA権を取得した場合、外国人選手における出場選手登録の制限(上限4人)に含まれなくなるが、FAによる人的補償としては、変わらず獲得することができない規定となっている。
意外なプロテクトの落とし穴
意外なことにプロテクトから外れていれば獲得できるのが、直前に他球団から移籍してきた選手。直前にトレードやFAで加入した選手でも、プロテクト対象に入っていなければ獲得できてしまうのだ。
例えば、2010年に阪神は楽天から藤井彰人、ロッテから小林宏之を獲得した。このとき藤井の方が先に入団を発表し、その後に小林という順番で入団している。小林の人的補償のため、 阪神はプロテクト選手をリストアップしていたが、実は藤井もプロテクトから外れていればロッテが獲得できるとわかり、慌てて藤井もリストに入れたとされる。
結局、将来を期待されていた高濱卓也がロッテへ移籍することになった。藤井の移籍は12月だったのに対し、小林の移籍が1月まで延びたため、ツインズに移籍した西岡剛の後継者を探していたロッテが成長著しい若手内野手を指名したようだ。
選手のランクはいつから決められた? 2度の改正があったFA制度
1993年に始まったFA制度は、これまでに2度改正されており、ランクに関するルールができたのは2008年の改正時だ。こういった変遷も含め、FA制度の歴史を詳しく見ていこう。
FA制度が取り入れられた1993年、阪神からダイエー(現ソフトバンク)へ移籍した松永浩美が移籍第1号であることはコアな野球ファンにはおなじみだろう。
この時は逆指名制度で入団した選手は一軍での登録日数が累計10年、それ以外で入団した選手は累計9年に到達すればFA権を取得できるルールだった。ただし、ここでいう1年とは、プロ野球の1シーズン分に当たる145日だ。10年なら1450日、9年なら1305日、累計で1軍に登録されていればFA権を取得できた。
また、補償についても現在とは違っており、制度導入後10年で人的補償による移籍は、1995年に巨人へ移籍した河野博文の補償で川邉忠義が日本ハムへ、2001年に巨人へ移籍した前田幸長の補償で平松一宏が中日へ、同年に近鉄へ移籍した加藤伸一の補償でユウキがオリックスへ移った3例のみ。金銭補償が高額だった上、「人的補償は非人道的」という考えも根底にあった。
2003年と2008年に2度改正
そして2003年に1度目の改正がなされる。ドラフト逆指名で入団した選手でも、それ以外の選手でも、一軍登録日数が累計9年に到達すればFA権を獲得できるようになった。この頃から人的補償が選ばれることも多くなった。
最も大きく変わったのは2008年だ。2007年の逆指名制度廃止もあり、FA制度は大幅に変更された。まずFA権が国内FA権と海外FA権に分離、取得までの日数も細かく分けられた。
・国内FA権
2006年までのドラフトで入団した選手:一軍登録日数が累計8年
2007年以降のドラフトで入団した高校生選手:一軍登録日数が累計8年
2007年以降のドラフトで入団した大学・社会人選手:一軍登録日数が累計7年
・海外FA権
全ての選手が一律で、一軍登録日数が累計9年
この年に初めて年俸による選手のランク分けと、ランクによって補償内容の違いが制度に組み込まれた。Cランクの選手は補償なしで獲得できるなど、補償の大幅な緩和も大きな変化だった。これによって球団側の負担が減ったのはもちろん、選手もよりFA権を行使しやすくなったといえる。2023年現在もこのルールが適用されている。
※金額はいずれも推定
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