「代打の切り札」から4番打者へと駆け上がった佐野恵太
シーズン折り返しを迎え、後半戦に突入したプロ野球。ここまでの戦いでブレークを果たした選手といえば、DeNAの佐野恵太だ。
今季4年目、現在25歳の佐野は8月終了まで全62試合に4番打者として出場し、首位打者射程圏内の打率.339(リーグ2位)、10本塁打、41打点をマーク。メジャー挑戦で退団した筒香嘉智の後を継ぐ新主砲としてDeNA打線をけん引している。
リーグを代表する打者といっていいほどの数字を残している佐野だが、昨季まではチーム内でもスタメンが確約された立場ではなかった。ただ“ある役割”においては、すでに球界トップクラスの力を発揮していた。
その役割とは「代打」である。昨季はシーズン全体(215打席)の打率.295・5本塁打・33打点に対し、代打(37打席)では打率.344・2本塁打・17打点という好成績をマーク。一発の魅力と同時に確実性も備えた終盤の「切り札」として、貴重な働きを見せていたのだ。
「代打の切り札」というと、例えば昨季限りで現役引退した阿部慎之助(現巨人二軍監督)のように、ベテランになって守備や走塁が衰えたかつての主力打者がその役目を担うケースが多い。一方、佐野の場合は「代打の切り札」として先に戦力になり、そこから4番打者へと上り詰めた。
言い方を変えれば、「代打の切り札」の立場が佐野を4番へと成長させたと見ることもできるだろう。代打は「2割5分打つことができれば上出来」と言われる。1打席限りの勝負でタイミングやスイングの調整が難しいことに加え、チーム内での代打として序列が上がっていくほど、出番は緊迫した場面に限られ、相手投手はクローザーやセットアッパーというケースが多くなる。そんな厳しい状況で結果を残してきた経験が、いざレギュラーを勝ち取った今季の驚くべき飛躍につながっているのかもしれない。
ロッテのドラフト2位・佐藤都志也は代打で鮮烈サヨナラデビュー
では、佐野の例に続く可能性があるような「若き代打の切り札」は現在の球界にいるだろうか。両リーグの若手代打事情を確認してみたい。
パ・リーグで代打での活躍が目を引く若手は、ロッテのルーキー・佐藤都志也だ。
東洋大学時代は2年春に六大学の首位打者を獲得し、「打てる捕手」を期待されドラフト2位で入団した左打者。ここまでシーズン全体(43打席)の打率は.250だが、代打ではリーグトップとなる6安打を放ち、打率.353の好成績をマークしている。
6月27日オリックス戦では延長10回に澤田圭佑からサヨナラタイムリーを放ったが、なんとこれがプロ2打席目での初安打。8月13日の日本ハム戦では1点リードの7回に金子弌大から勝利を決定づける2点タイムリー、8月22日ソフトバンク戦でも7回に板東湧梧から一時同点となる2点タイムリー放つなど、しびれる場面で起用され見事に期待に応えている。
ロッテの捕手には実績十分の田村龍弘がおり、柿沼友哉も力を伸ばしてきている。ルーキーがマスクを被るチャンスは限られており、当面は途中出場がメインとなるだろうが、将来の主軸候補としてその打席に注目していきたい打者だ。
広島の有望株・坂倉はいよいよ大成か
セ・リーグでは、こちらも捕手の坂倉将吾が頼もしい代打である。
入団時から打撃センスの評価が高く、有望株として注目されていた坂倉。プロ3年目の昨季、本格的に一軍で起用されるようになった。シーズン全体の64打席のうち45打席は代打と、ほとんどが代打での出場だったが、代打打率は.286をマーク。高卒3年目の打者の代打成績としては見事ともいえる数字を残していた。
今季も代打では13打数5安打の打率.385をマーク。8月8日阪神戦では同点の7回に藤川球児から決勝タイムリー、8月10日中日戦では2点リードの8回に佐藤優からダメ押しの2点タイムリー、8月23日巨人戦では同点の8回に大竹寛から決勝本塁打と、試合を決める一打が目立つ。
そして今季はスタメンマスクを被る機会も増え、シーズン全体(82打席)でも打率.346・3本塁打・15打点と好成績を残している。正捕手に3年連続ベストナインの會澤翼がいる以上、捕手にこだわる限りすぐにレギュラー奪取というわけにはいかないが、着実にステップアップしている段階だろう。
「若き代打の切り札」として存在感を放つ佐藤と坂倉。いずれレギュラーを掴むことになれば、佐野の例のように劇的な進化を遂げることはあるのか。今からその成長を楽しみにしておきたい。
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