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ヤクルト宮本丈の打撃が開花 便利屋から正二塁手獲りへ向けまず一歩

2020 8/11 11:20勝田聡
ヤクルトの宮本丈ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

大卒3年目のブレイク候補

今年のヤクルトはおもしろい。開幕してからチームが好調ということもあるが、それ以上に選手層が厚くなってきたからだ。ただ、あくまで「当社比」であり、毎年のように育成から一軍戦力を輩出しているソフトバンクと比べれば、まだまだだろう。それでも頼もしくなってきた、と感じている。

山田哲人という看板選手が離脱しても、代わりに出場している選手で十分に満足できるのだ。特に注目したいのが、大卒3年目の宮本丈。もしかしたらここで結果を出せば、レギュラーになることができるかもしれない、そんな雰囲気さえ漂ってきた。

宮本は2017年のドラフト6位で指名され、奈良学園大学からヤクルトへと入団した左打ちの内野手だ。昨シーズンまでの2年間では一軍で52試合に出場し、打率.181(83打数15安打)。戦力になっていたとは言えず、打席でも大きな期待がかけられる存在ではなかった。その宮本が今季、大きな変貌を遂げている。

長打力が増しOPS.853と高水準をキープ

今シーズンの宮本はここまでキャリアハイとなる36試合に出場し、打率.308(52打数16安打)、2本塁打、7打点と結果を残している。

打撃面では中堅から右方向、つまり左打者の宮本にとって引っ張りとなる方向への打球が増えている。昨シーズンは54.5%だった右方向への打球が今シーズンは65.2%と10%以上も増加。ただ、強い打球が増えたとはいえ、豪快な本塁打を売りとした長距離砲というわけではなく、巧打者といった印象だ。

その他の指標では、OPS(出塁率+長打率)が.853と高水準をキープしている。50打席以上立った選手の中ではチーム4位。村上宗隆、青木宣親といった「1.000」近い数字を誇るリーグトップクラスの打者には及ばないが、それでも十分すぎる数字だ。

参考事例を出すと、離脱前の山田はOPS.770であり、セ・リーグでは西川龍馬(広島)がOPS.859、梶谷隆幸(DeNA)がOPS.821となっている。宮本の打席数はまだまだ少ないものの、チームの看板選手となる可能性は大いにありそうだ。

また、守備では起用法が大きく変わった。そもそも大学時代は遊撃を守っていたが、プロに入ってからは二塁、三塁、そして左翼と複数の守備位置についてきた。正直、今シーズン序盤までは便利屋的な扱いだった感は否めない。

しかし、ここ最近は試合前のシートノックでも、左翼などでは受けず二塁のみ。その中で派手なプレーではなく、堅実にこなすのが持ち味といえる。二塁のライバルである廣岡大志は、どちらかというと長打力とややアクロバティックな守備を売りにしており、宮本は対照的な存在と言える。

目指すは履正社の先輩・山田哲人超え

山田が不在の中、宮本が(廣岡とともに)二塁の穴を埋めていることは間違いないが、本人が代役で満足しているはずがない。プロ野球選手、それも入団3年目の若手である。目指す先はレギュラー定着だろう。

履正社高の大先輩である山田に追いつき、そして追い越すことが大目標となる。現時点の実績では、山田が遙か先にいることは疑いようのない事実だ。それでも確固たるレギュラーの不振や故障から、レギュラーが入れ替わることは珍しいことではない。それこそヤクルトでは、2013年に田中浩康(現DeNAコーチ)から山田へのレギュラー交代劇があった。

前年にはベストナインとゴールデングラブ賞を受賞した田中が、不振で二軍落ちしている間に頭角を現したのが山田だったのである。当時の田中は31歳であり、ベテランからの世代交代ではなかった。もちろん、当時の田中と山田の関係、現在の山田と宮本の関係がイコールかというと、そういうわけではないが、あっと驚くレギュラー交代はありえるということだ。

ミスタースワローズの証である「1」を背負う山田が、故障による不振のままシーズンを終える姿は見たくない。一方で山田の復帰時に、宮本が簡単にポジションを明け渡してしまうのも切ないものがある。プロ野球は勝負の世界であることは百も承知。それでも、月並みな表現だけれども、切磋琢磨しながらヤクルトの二塁を争ってほしい。

ここ数年はあまり見られなかった競争が頻繁に起これば、選手層は厚くなり、「故障者がいなければ強い」と揶揄されることもなくなるはずだ。イニング間のキャッチボール役は後輩に任せ、自身はグラウンドの中に立つ。そんな宮本の姿を心から望んでいる。

※数字は2020年8月10日終了時点

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