打撃指標はセ・リーグ屈指の成績
開幕からヤクルトが上位争いを演じている。そのチームの中心にいるのが主将の青木宣親だ。
もちろん好調なチームを紐解くと、若き4番・村上宗隆の進化、山崎晃大朗の覚醒、清水昇ら中継ぎ陣の踏ん張りなど、その要因は数え上げればきりがない。しかし、そのどれもが青木の存在の前には霞んでしまう。
ここまで打率.337、6本塁打は文句のつけようがない。打率は首位打者争いに顔を出せるほどの数字であり、チーム内では村上に次いで2位。また、昨シーズン終了時点でNPB通算打率.326でトップ(4000打数以上)に立ったが、その数字を落とすことなく、いやさらに上げてもおかしくはないほど打ちまくっている。
決して長距離砲タイプではないにもかかわらず、6本塁打を放っている点も見逃せない。走塁、守備面を見ていると渡米前よりも脚力に衰えは見られるが、それを補うかのようにパワーは増した。
6本塁打は山田哲人や村上といった長距離砲に引けを取らないどころか、彼らを差し置いてチームトップの数字でもある。今シーズンは例年より少ない120試合制だが、キャリアハイの20本塁打(2007年)を超えそうな勢いだ。
さらには、出塁率.449(セ・リーグ2位)と長打率.643(同3位)、OPS1.092(同2位)とその他の数字も優秀だ。まだまだシーズンは始まったばかりだが、「青木ならこのまま…」と期待せずにはいられない。それだけの数字を残し、チームを引っ張っているのだ。
代打打率は驚異の10割
実際にプレーを見なくても数字(成績)を見れば、青木の素晴らしさは伝わるかもしれない。だが、青木の凄さはこれだけではない。何よりも、ここぞという時の集中力が凄まじいのだ。
いつも以上に集中し、神経を研ぎ澄ませているであろう代打での成績はなんと3打数3安打。その内容がさらにすごい。逆転打(6月27日/巨人戦)、逆転への口火を切る一打(7月9日/中日戦)、そして同点打(7月19日/広島戦)とすべてに重みがある。
振り返ってみると、昨シーズンも青木は代打で4打数2安打と好結果を残している。とくに延長12回裏2死から放ったサヨナラ本塁打(4月7日/中日戦)を記憶しているファンも多いのではないだろうか。
さらには、首位である巨人との対戦ではいつも以上の力を発揮している。ここまでに行われた巨人戦8試合における成績は、打率.400、3本塁打、9打点、OPS1.436、得点圏打率.600ととんでもない数字が並ぶ。巨人の原辰徳監督を「マークしているけど、青木ひとりにやられているね」と唸らせるほどだ。
もちろん試合に出場する以上、全打席どんな場面でも集中はしているに違いないが、代打での出場、首位の巨人との対戦と、普段以上に結果がほしい場面で役割を果たしている心強さはなにものにも代えがたい。
チームメートにもファンにも気配りのデキる男
成績面、集中力だけではない。青木は気配りもできる男だ。今シーズンは無観客試合で開幕。現在は有観客試合になったものの、最大5000人と観客は少ない。また、鳴り物応援もなく声が響く。その環境下で青木は左翼から投手や内野手に向けて、「グッジョブ」「粘れよライアン!」「いいね!」といった声をかけていることがよくわかる。
スタンドの音がないとはいえ、集中して戦っているメンバーに届いているのかは定かではないものの、そういった鼓舞を欠かさないのが青木という男なのだ。
また、ファンに対しての行動も目を見張るものがある。神宮球場では、球場入りや試合終了後に引き上げるとき、一塁側の観客席前の通ることになるが、必ずと言っていいほど手をあげて応えている。なかなかここまでやる選手は見当たらない、というくらいにだ。
試合の前後だけではない。青木に限らず、得点を入れた直後の守備につくときは観客席から名前がコールされ、それに応えるのが定番だ。しかし、今は声援を送ることができない。そのため観客は拍手でエールを贈っている。名前をコールするわけではないが、青木はそれに気がつくと、すぐに帽子をとって観客席に応えているのだ。その空気感はたまらない。
主将として文句のない成績を残し、ここぞの場面で集中力を発揮する。それでいて、味方を鼓舞し、ファンを大事にする。こんな選手が他にいるのだろうか。ふと考えてしまうほど、今シーズンの青木は神がかっており、伝説を築きそうである。
とはいえ、青木も現在38歳。野球選手としてはベテランの域だ。これから先、10年、20年と現役生活を送ることができるわけではない。
2018年アメリカから戻ってきたときに「ヤクルトを愛しています。優勝させることしか考えていません」とまで言い切った青木が、現役でいるうちに優勝を。それが多くのファンの願いである。
※数字は2020年7月26日終了時点
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