かつては多数のスイッチヒッターが存在
近年のプロ野球では少なくなったスイッチヒッター。かつては高橋慶彦(元阪神)や松永浩美(ダイエー)、松井稼頭央(元楽天)、外国人助っ人ではオレステス・デストラーデ(元西武)やフェルナンド・セギノール(元オリックス)など、球史に名を残すスイッチヒッターが数多く存在した。
投手の左右を苦にしない打者もいるが、一般的に右投手には左打者、左投手には右打者が有利という考え方がある。しかしスイッチヒッターの場合にはどちらの投手がきても悩むことなく指揮官は送り出せる。
メリットも多い。足の速い右打者がスイッチヒッターに転向し左打席に入れば、一塁までより早く到達できるし、外角に逃げる球に苦労していた右打者が左打席に入れば、その球を投じられる回数は減るだろう。右打席では調子が良くて左打席は調子が悪いとなれば、しばらくは右で打つなど融通が利くのも強みだ。
走攻守に優れたプレーヤーが多い
スイッチヒッターの通算安打を見ると、1位は西武や楽天、メジャーでも活躍した松井稼頭央。走攻守三拍子が高いレベルで揃い、アテネ五輪や第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)など国際大会でも活躍。2002年にはスイッチヒッターとして初のトリプルスリーを達成した。
松永浩美も球史に燦然と輝く走攻守に優れたプレーヤー。2000本安打には届かなかったが、生涯打率.293、203本塁打、239盗塁と走攻守で長年に渡って活躍。阪急黄金時代を支え、晩年は当時Bクラスに低迷していたダイエーに移籍しチームリーダーとして勝者のマインドを注入した。
グリップを顔に近づける独特な打撃フォームが印象的だった高橋慶彦もランクイン。同時期に活躍した山崎隆造(元広島)や正田耕三(元広島)の名もあり、この面々が1980年代の広島打線をいかに牽引していたかがうかがえる。正田は安打製造機・篠塚和典(元巨人)と首位打者を争うなど全盛期は毎年のようにハイアベレージを残した。
近年では金城龍彦(元巨人)と西岡剛(元阪神)が、ともにスイッチヒッターとしてシーズン最高の打率.346をマークするなど活躍。特に西岡は、2010年に日本人スイッチヒッターおよび内野手としては初となるシーズン200安打を達成し、最多安打のタイトルも獲得。同年のロッテの下克上日本一達成に貢献した。
西武在籍計5年間で通算160本塁打を放ち、本塁打王を3回獲得するなど西武黄金時代を支えたデストラーデや、オリックスや日本ハム、楽天と渡り歩きNPB球団在籍計8年間で172本塁打を放ったセギノールなど、長打力に優れた打者もいたが、スイッチヒッターには松井や松永、高橋のように走攻守のバランスがとれたプレーヤーが多い。
スイッチヒッターを断念する打者も
スイッチヒッターに挑戦するも、短期間で断念したプレーヤーもいる。近年の例で言えば大和(DeNA)。プロ12年目2017年(阪神時代)から左打ちに取り組んでいたが、DeNA移籍1年目のシーズン序盤に右だけに戻した。江越大賀(阪神)も2017年秋季キャンプからスイッチヒッターに取り組んでいたが、2018年には従来通り、右に専念することとなった。
普通に考えれば、スイッチヒッターは左右両打席の練習をするため2倍の練習量が必要となり、実際の試合に通用するレベルまで技術を高めていくためには相当な労力がかかる。1軍の投手の球を打つのであれば尚更だ。そこを乗り越えていけば……ということになるが、どちらも中途半端に終わるリスクがある。長年スイッチヒッターとして体に染みついているものがあれば話は別かもしれないが、プロ入りして何年か後に取り組む難しさは想像に難しくない。
2018年に打率.265、18本塁打、21盗塁をマークしてブレイクした田中和基(楽天)は、近年のスイッチヒッターの成功者と言える。しかし、昨季は怪我の影響もあり低迷し今季もまだ1軍でも出番がない。今では絶滅危惧種と言っても過言ではないスイッチヒッターの代表格として復活が期待される。
左右両方の打席が見られるバッターというのは野球の醍醐味のひとつでもある。存在が稀有だけに今後有力なスイッチヒッターが出てくれば注目を集めることは間違いない。
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