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虎のレジェンド・鳥谷敬の軌跡とロッテへもたらすもの【最後のひと花を咲かせたい】

2020 6/17 11:00浜田哲男
今季ロッテに移籍した鳥谷敬Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

動向が注目されていた虎のレジェンド

長きに渡り、阪神の顔として活躍してきた鳥谷敬。3月10日に獲得の発表がロッテからされると、ロッテファンだけでなく、その動向を見守っていた多くの阪神ファンからの安堵の声やエールがネット上に飛び交った。

2003年ドラフト自由枠で阪神に入団すると早々に正遊撃手に定着し、通算2169試合に出場。2085安打(阪神歴代トップ)、打率.280。138本塁打、822打点、131盗塁をマークし、ベストナインには6度、ゴールデン・グラブ賞には5度輝いた。圧巻は歴代2位となる1939試合連続出場というとてつもない記録(1位は衣笠祥雄氏の2215試合)。NPB史上屈指の鉄人であることは周知の事実だ。

今回は、鳥谷が虎のレジェンドたる所以を振り返りつつ、ロッテでどのように活躍し、化学反応を起こすのかを考察する。

信じがたい鉄人ぶり

前述したように、鳥谷は歴代2位の連続試合出場記録を持っているが、同記録を達成する最中に歴代4位となる667試合連続フルイニング出場もマーク。これは遊撃手として歴代トップの記録だ。肉体的にも精神的にもハードなポジションで常に試合に出続けたことには何にも代えがたい価値がある。

2017年5月には顔面に死球を受け、バッターボックスに膝をついて大量の出血。鼻骨骨折と診断される重症だったが、翌日の試合にフェイスガードを装着して代打で登場。信じがたい鉄人ぶりを発揮した。鳥谷のまさかの登場に甲子園は沸き、対戦相手の巨人ファンからもその勇気を称える惜しみない拍手が送られた。

ロッテには、長年同じポジションを守り続けるような絶対的なレギュラーが近年は少ない。遊撃をはじめ、三塁、二塁などで長年試合に出続けた男の背中は、これ以上にない刺激と教材になるはずだ。

「学び」と「競争」意識の向上

鳥谷が遊撃手として残した偉大な記録は、連続フルイニング出場だけではない。2010年にマークした104打点は、遊撃手がマークした打点として歴代トップ。近年は2016年に巨人の坂本勇人がマークしたセ・リーグ初となる遊撃手の首位打者が脚光を浴びたが(パ・リーグでは1956年に西鉄・豊田泰光氏、2010年にロッテ・西岡剛がマーク)、鳥谷の104打点の価値もはかりしれない。

同年の阪神は、マット・マートン(同年、当時の最多安打記録となる214安打をマーク)やリーグ2位の打率.350をマークした平野恵一、112打点を挙げた新井貴浩、打率.303、28本塁打、91打点をマークした城島健司、リーグ2位の47本塁打を放ったクレイグ・ブラゼルらが並ぶ強力打線を形成。その中で主に1番や3番で出場した鳥谷も強力打線の一角として存在感を示した。

ロッテでは2010年限りでチームを去った西岡剛以降、打てる遊撃手が出てこない。確かに守備が第一のポジションであることは間違いないが、打撃の期待できる遊撃手が長年君臨してくれれば指揮官にとって心強いし打線に厚みも出る。

鳥谷の打撃の衰えは否めないが、熟練の技と経験は特に同じ左打者でもある藤岡裕大や福田光輝、平沢大河らにとっては全てがお手本。鳥谷のコンディションが上がり、結果がついてくれば競争相手ともなり、藤岡らは例年以上に打つ方で結果を出さなければならない。チームにもたらす「学び」と「競争」という面での相乗効果は大きい。

球界屈指の選球眼

鳥谷の特長を示す上で外せないのが選球眼の良さ。毎年のように四球数は多いが、特に2011年~2013年にかけては3年連続でリーグトップの四球数を記録(2013年の104四球は阪神歴代トップ)。2013年には四球数の多さも手伝って出塁率.402をマークした。

ロッテは最下位に沈んだ2017年にチーム四球数がリーグ最下位の387個。同年オフに井口資仁新監督が誕生すると、走塁革命に着手するとともに、「四球もヒットと同じ価値がある」と選手らに説いて出塁するための四球の重要性を浸透させた。

その成果もあってか2018年はリーグ3位の474個。2019年はリーグ3位の505個と年々チーム四球数が増加傾向だ。

6月12日の西武との練習試合に7回に代打で登場した鳥谷は、西武のセットアッパー・平井克典と対峙。早々に追い込まれるも、その後は際どいボールを冷静に見極めて四球を選んだ。練習試合ではなかなか快音を響かせることができずに打ちたい気持ちもあるだろうが、不振の中でも出塁してチームプレーに徹する姿は鳥谷の真骨頂だった。

ロッテは昨季、本塁打数が前年の2倍に増えるなど得点力は向上した一方で盗塁数が約半数に激減。今季再び、走塁革命を再燃させるためにも出塁率の向上は必須で、そのために四球獲得の意識を高めたい。選球眼に定評のある鳥谷の存在はそうした観点からも大きい。

同級生・青木宣親の存在

鳥谷にとって刺激になっているのがヤクルトの青木宣親ではないだろうか。早稲田大学野球部で共に闘った同級生であり、長年セ・リーグで対戦相手として相まみえてきた好敵手でもある。

2017年12月31日に放送された「鳥谷敬×青木宣親~同級生 初めて本音で話しました~」(NHK BS1にて放送)では、同大野球部時代の懐かしい話や打撃論に花を咲かせていた。

鳥谷が阪神でレジェンドとなったように、青木もまたヤクルトのレジェンド。NPBで唯一200安打を2回達成。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)には3度出場(2006年・2009年・2017年)し連覇にも貢献。メジャーでは複数の球団を渡り歩いた稀代のヒットメーカーだ。

2018年にメジャーから日本球界(ヤクルト)に復帰すると、いきなり打率.327。昨季も.297をマークと、衰えを見せない。今季の練習試合でも主軸を任されて安打を重ね、元気な姿を見せている。また、高津臣吾新監督に今季から主将に指名されており、類い希なキャプテンシーを発揮している。

そんな青木の活躍が刺激とならないわけはない。井口監督も「全てのポジションでレギュラーのチャンスがあるし、レギュラー目指してアピールしてほしい」と鳥谷に発破をかけている。練習試合では20打席目で初安打を放ち苦しんではいるが、随所にいい当たりも見られるようになってきた。また、守備では年齢を感じさせない軽快なプレーを続けている。

日本シリーズで阪神との対戦を熱望

ロッテは自粛期間中、ファンからの質問に選手達が答える企画を実施。移籍がなかなか決まらない中「自分を奮い立たせたものは?」という質問に対し鳥谷は、「家族を含めたまわりの方々の存在です。自分以上に現役を続けてほしいと思っている人たちがたくさんいました。気持ち的にはそれが一番です」と答えている。

また、今季は阪神と交流戦で対戦する機会はなくなったが、「ロッテがパ・リーグで勝ち、セ・リーグの勝者と闘えるチャンスをつかむ。その相手が阪神という想い出のたくさん詰まったチームであれば、こんな最高な話はないと思っています」と日本シリーズでの阪神との対戦を望んでいた。

阪神を退団以降も現役続行の道を選んだ鳥谷。そして今のチームに必要と判断し獲得に動いたロッテ。新しい環境やチームメイトと共に最後のひと花を咲かせることができるか。虎のレジェンドと呼ばれた男の生き様に注目していきたい。

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