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栄光と挫折を経て…松坂大輔を突き動かす2つの理由【最後のひと花を咲かせたい】

2020 6/16 11:00浜田哲男
埼玉西武ライオンズの松坂大輔ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

絵に描いたような栄光の軌跡

1990年代後半から2009年頃までは、間違いなくこの男を中心にまわっていた。「平成の怪物」と呼ばれた松坂大輔だ。

横浜高校3年時の1998年は甲子園春夏連覇。夏の決勝ではノーヒットノーランを達成し、同年のドラフトで3球団競合の末に交渉権を獲得した西武に入団。プロ入り1年目から開幕ローテーション入りを果たすなど早々に頭角を表すと、3年連続で最多勝を達成。一躍日本球界を代表する投手にのし上がった。

国際大会でも常に日の丸を背負うエースとして君臨。プロの選手が初めて参加した2000年シドニー五輪を皮切りに2004年アテネ五輪に出場したほか、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも2006年の第1回大会と2009年の第2回大会に出場。2大会連続でMVPに輝き、日本の連覇に貢献した。

メジャーでも怪物ぶりを発揮。レッドソックス移籍1年目の2007年に15勝(12敗)を挙げてワールドシリーズ制覇に貢献すると、2年目には18勝(3敗)。メジャー通算56勝(43敗)をマークした。

まさに絵に描いたような栄光の軌跡だが、メジャーでの晩年は故障に泣かされ、2015年から日本球界に復帰するもソフトバンク在籍3年間で未勝利。中日に移籍した1年目こそ6勝(4敗)を挙げる活躍を見せたが、2019年は右肩の違和感や右肘痛で未勝利。今季から古巣の西武に活躍の場を移している。

現在、日米通算170勝(108敗)。当初は200勝を軽々とクリアするペースでキャリアを積んでいたが、今季も2軍スタートが決定するなど大台到達に向けて厳しい状況は続いている。

松坂にとっての200勝の意味

満身創痍の松坂が、現役にこだわって野球を続ける理由のひとつが200勝という数字。残り30勝と考えるとハードルはかなり高いが、「達成したい気持ちが強くなっていることは確かです」と西武へ復帰した際に明かしている。

通算200勝は名球会入りの条件ということもあるが、松坂にとっての200勝は深い意味を持つ。松坂に西武入団を決意させたのが、当時西武で指揮を執っていた東尾修監督が渡した200勝達成時の記念ボールだったからだ。

「オレにとって大切なボール」という宝物を松坂に渡したのは、それだけの期待があったからに他ならない。ドラフト前の松坂の意中の球団は横浜。横浜高校出身者として親しみがあったであろう上に、ちょうど1998年には横浜が38年ぶりの日本一を達成するなど黄金期を迎えていたこともあり、惹かれるのは無理もなかった。

そんな松坂は西武の入団に当初難色を示していたが、交渉の場で気持ちをグッと引き寄せたのは東尾監督の熱意や人柄はもちろん、同監督が球史に名を残す大投手(プロ通算251勝247敗)であったことも大きかったのだろう。

「丈夫で長持ちして200勝してほしい」と期待をかける東尾監督のもとで、松坂はプロ入り1年目から16勝(5敗)、防御率2.60を挙げる活躍を見せ、最多勝と新人王のタイトルを獲得し指揮官の期待に見事に応えた。

松坂世代の仲間たちのために

松坂を突き動かすもうひとつの理由が、今年40歳を迎える「松坂世代」と呼ばれる多くの同世代の存在だろう。同じ時代に敵として相まみえ、時には味方として共闘。そんな仲間たちとは公私ともに親交が深い。

松坂世代の主な投手 NPB通算成績(2019年終了時点)ⒸSPAIA

和田毅(ソフトバンク)、藤川球児(阪神)、久保裕也(楽天)、館山昌平(楽天2軍投手コーチ)、杉内俊哉(巨人2軍投手コーチ)、木佐貫洋(巨人2軍投手コーチ)ら好投手が並び、野手でも渡辺直人(選手兼1軍打撃コーチ)、平石洋介(ソフトバンク1軍打撃兼野手総合コーチ)、小谷野栄一(オリックス2軍打撃コーチ)、實松一成(巨人2軍バッテリーコーチ)、村田修一(巨人2軍野手総合コーチ)ら、かつてプロで活躍したプレーヤーがひしめいている。

しかし、松坂世代のプレーヤーも年々現役を引退し、多くは指導者に。現在も現役を続行しているのは、松坂、和田、藤川、久保、渡辺の5人だけ。松坂は世代の代表として「まだまだ頑張りたい」と意欲を見せているが、自分だけでなく「仲間たちの分も」という気持ちは少なからずあるだろう。

所沢のマウンドで最後のひと花を

松坂は6月7日、本拠地メットライフドームで行われた古巣の中日戦に登板。1回無安打1四球無失点だったが、長いイニングを投げられるコンディションではなく、首脳陣らの判断で開幕は2軍で迎えることが決定した。

結果だけ見れば悪くはないが、先頭の高橋周平に制球が全く定まらずにストレートの四球を与えたほか、以降の打者にも立て続けにいい当たりをされるなど、ローテーションの一角を任せるには程遠い内容だったことは否めない。

一方、同じリーグでしのぎを削ってきた同世代の和田は、好不調の波はあるものの練習試合で比較的安定した投球を見せており、開幕ローテーションの座をつかんでいる。

互いにメジャーに挑戦した同士であり、松坂が西武、和田がソフトバンクと、ここ数年のパ・リーグで常に優勝争いを演じているチームに所属していることもあり、先発での対戦が実現すれば盛り上がるだろう。和田の存在と活躍は松坂にとって大きな発奮材料となるはずだ。

日本復帰以降いばらの道が続いている松坂だが、かつては絶対的エースとして君臨した西武で輝きを取り戻すことができるか。一時代を築いた平成の怪物が、プロとしての礎を築いた所沢のマウンドで最後のひと花を咲かせることができるか。その一挙手一投足に注目していきたい。

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