「ブルペン崩壊危機」に現れた救世主
ようやく、開幕を迎えようとしている2020年代のプロ野球。これから10年間の戦いを見据えたうえで、各チームの命運を握ることになりそうな選手に注目していきたい。今回は巨人のリリーフ左腕・中川皓太を取り上げる。
分業化が確立された現代のプロ野球において、「勝利の方程式」構築はペナントを制すための必須要素となっている。
近年の巨人のリリーフ事情を振り返ると、2010年代前半は「スコット鉄太朗」と呼ばれたマシソン、山口鉄也、西村健太朗を中心に強固なブルペンを築いた。しかし彼らの衰えとともに、2010年代後半は徐々にブルペンが不安定に。特に18年は救援防御率が2010年以降ワーストの4.12まで悪化。このシーズンは長年ブルペンの「柱」としてチームを引っ張ってきたマシソンの怪我もあり、リリーフ陣には大きな不安が残った。
そんな「ブルペン崩壊危機」と言えるような状況の中で、チームを救ったのが中川だ。
データから見える球界を代表するリリーバーとしての可能性
腕の位置を下げる新フォームで臨んだプロ4年目の昨季は、開幕から5月半ばまで16試合連続無失点を記録する絶好のスタートを切り、勝ちパターンに定着。一時はクローザーも務め、チーム最多の67試合に登板して防御率2.37、16セーブ、17ホールドの好成績を残した。
プロ入り2年間は目立った実績がなく、3年目の18年は30試合に登板したものの防御率5.02と不安定だったが、昨季はチームのウィークポイントを解消する働きで、一躍リーグ優勝の立役者となった。
投球データを詳細に見ていくと、変化球はほぼスライダー一本という球種構成ながら、投球割合42.6%を占めるこのスライダーが被打率.165と絶対的な決め球になっている。
サイドからの角度が武器になる曲がりの大きなタイプのスライダーだが、コントロールに苦しむ場面を見ることは少なく、奪三振と与四球の割合「K/BB」4.11はトップクラスの数字だ。
バックの守備力による影響を受けない奪三振・与四球・被本塁打の3要素で投球を評価する疑似防御率「FIP」は2.19をマーク。これは40試合上に登板したセ・リーグの日本人投手ではトップとなる。球界を代表するリリーバーとなれる素質を示したと言えるだろう。
「右打者封じ」がさらなる飛躍の鍵
一方で、課題が見えたのは右打者への投球。対左打者の被打率.200・被本塁打0に対して、対右打者は被打率.273・被本塁打3とやや苦手にした。
他球団のクローザーやセットアッパークラスの左腕は、むしろ右打者の方をしっかり抑えていることが多い。中川と同じく左のサイドハンドで、ほぼストレートとスライダーの2球種しかない日本ハム・宮西尚生も右打者を被打率.167に抑えている。中川もここからリリーバーとしてさらに上り詰めていくためには、対右打者成績の向上が鍵となりそうだ。
また、昨季は疲れが出てくると同時に、相手打者たちの対策も進む夏場に調子を落としてしまった。8月の月間防御率は6.75。開幕が大幅に遅れる今季のプロ野球は過密日程が予想されるが、その中でもシーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮することができるだろうか。
こういった課題もクリアできれば、絶対的リリーフエースとしてより頼れる存在になってくる。これからブルペンの「柱」として長くチームを引っ張っていく姿を期待したいが、まずは今季、ブレークを果たした昨季を上回るようなピッチングを見せてほしい。
2020年プロ野球・読売ジャイアンツ記事まとめ