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大谷翔平挑戦「ノーステップ打法」は長距離砲の登竜門!?

2018 5/4 15:00青木スラッガー
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Ⓒゲッティイメージズ

「ノーステップ打法」で3連発の衝撃デビューを飾った大谷

4月3日の本拠地開幕戦から、衝撃の3試合連続本塁打。11試合の出場で本塁打ゼロ、打率1割台前半だったオープン戦時から打って変わり、打者・大谷翔平が開幕から快進撃を続けている。

変化のきっかけはキャンプ終盤から取り組んだ「ノーステップ打法」だ。日本ハム時代の大谷といえば、「一本足打法」に近い打撃フォームだった。右足を太ももがベルトのラインに届くくらいまで高く上げ、左足一本でボールを待ち、体重移動を大きく使ってボールに力を伝える。

その打撃フォームのまま臨んだオープン戦序盤では、手元で鋭く動くムービングボールと厳しいインコース攻めに苦しんだ。適応するため、右足をほとんど地面から上げずにタイミングを取るノーステップ打法に着手。オープン戦最終盤からの突貫工事で本番に間に合わせ、衝撃の3連発デビューにつなげた。

ノーステップ打法は目線のぶれが少なく、よりシンプルな動作でボールを待てることで「差し込まれ」を防ぎやすいというメリットがある反面、デメリットもある。体重移動が限られる分、よほど力のある選手でないと飛距離を出せない。この打ち方であれだけ飛ばす大谷のパワーは、やはり日本人離れしているといえるだろう。

「ノーステップ打法」流行を予感させたT-岡田・中田翔だったが……

過去にプロ野球でノーステップ打法により活躍した選手もパワー自慢が多い。どんな選手がこの打法に取り組んできたか少し振り返ってみる。

現在まで長くノーステップ打法を続けている選手に、首位打者2回の安打製造機・角中勝也(ロッテ)がいるが、彼の場合は大谷の例とは少し違う。角中がノーステップで打つのは追い込まれたときだ。通常時はすり足で打つ。あくまで打席の中で軽打に徹するための工夫として、ノーステップの打ち方を取り入れている。

大谷のように常時ノーステップの打撃フォームで、近年印象的な活躍を見せたのは、若き日のT-岡田(オリックス)と中田翔(日本ハム)だ。

2010年、5年目のT-岡田(オリックス)がノーステップ打法で33本塁打を放ち、本塁打王に輝く。2011年は4年目の中田翔(日本ハム)がノーステップ打法で18本塁打を放ち、長距離砲として本格的に台頭してきた。

だが、両者ともブレイク年の翌シーズン序盤は不振に陥り、飛躍のきっかけとなったノーステップ打法をあっさり断念。T-岡田は飛距離不足、中田は下半身が負担に耐え切れなかったことが理由だった。ステップして打つフォームに戻すことで、その後の復調につなげている。

鈴木誠也の「神ってる」ノーステップ弾。実は筒香嘉智も……?

T-岡田、中田と続けてのブレイクは日本球界にノーステップ打法の流行を予感させたが、2人の断念後はなかなかこの打法で本塁打を量産する選手が現れなかった。

そのような中、広島が25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年、久々にノーステップ打法で豪快な打球を飛ばす選手がこのチームから現れた。この年29本塁打を放つ大ブレイクを果たした鈴木誠也だ。

鈴木は基本的には普通にステップして打つ選手だが、緒方孝市監督の口から「神ってる」の言葉が生まれた交流戦の2試合連続サヨナラ本塁打はノーステップ打法によるものだった。ここから本塁打を量産し、優勝の原動力となった。

その鈴木や38本塁打の山田哲人(ヤクルト)などを抑え、2016年のセ・リーグ本塁打を獲得したのは、44本塁打を放ったDeNAの主砲・筒香嘉智。あまり知られていないことだが、実は筒香もこのシーズンはノーステップ打法が飛躍のきっかけとなっていた。

前年オフ、武者修行のためドミニカ共和国のウィンターリーグに参加したときのことだ。大谷と同じように、動くボールへの対応からこの打法へ行き着いた。帰国し、シーズンに入ってからは元の打ち方に戻したが、ステップして打つ中でも、コンパクトで力強いものに打撃が進化。ハマの4番から日本の4番へ成長を遂げた。

「ノーステップ打法」挑戦はスラッガー飛躍のきっかけになる!?

T-岡田、中田、鈴木、筒香……近年ノーステップ打法に挑戦した選手を振り返ってみると、この打法がブレイクのきっかけとなっている。彼らの長距離砲はノーステップ打法に取り組むことで何かを掴み、そこから卒業することで、さらに怖い打者へと成長していった。

大谷も、打撃フォームに関する発言を聞く限り、今の打ち方に固執する気はないようだ。

ノーステップ打法のデメリットには前述したが、この打ち方で十分に飛距離を稼げるだけのパワーを持つ選手でも、「体への負担」という面は避けられないマイナス部分がある。中田翔のノーステップ断念の理由にもなったが、下半身の踏ん張りが必要なこの打法は疲労がたまりやすいはずだ。

その点、二刀流プレーヤーとして、普通の選手よりも疲労が重なりやすい大谷は、ノーステップ打法を継続することが難しくなる時期が来るかもしれない。だが、次に足を上げて打つとき、今よりももっと怖い打者に成長しているのではないだろうか。