広島入団時から「ずっと練習していた」
野球小僧がついに、世界最高峰の舞台へとたどり着いた。
ポスティングシステムでのメジャー移籍を目指していた広島・鈴木誠也外野手(27)がカブスと契約合意に達した。条件面は5年総額8500万ドル(100億円超)。07年にカブスが福留孝介(中日)の獲得時に提示した4年4800万ドル(当時54億2400万円)を大きく上回り、渡米時の日本人野手最高条件となった。
背番号も尊敬するマイク・トラウト(エンゼルス)と同じ「27」に決定。球団からの期待の大きさを如実に示す契約内容だった。
カブスのデビッド・ロス監督は実力はもとより、人間性や野球に取り組む姿勢を高く評価したという。監督も認める鈴木誠也の性質は広島時代から、いや入団以前から変わっていない。2012年ドラフト2位で広島に入団。当時を知る関係者は「こちらが心配するくらい、ずっと練習していた」と証言する。
長時間の特守にも「いい感じです」
ルーキーイヤーの夏の出来事だ。灼熱の由宇球場。当時、遊撃を守っていた鈴木誠也は試合後の特守が日課だった。豊富な練習量で知られるカープだけに、特守は長時間にわたり、心身ともに限界に。少なくとも周囲にはそう見えた。しかし鈴木誠也は心配して声をかけた先輩選手を驚かせる一言を放つ。
「いい感じです。僕、これぐらいじゃないとダメなんですよ」
その先輩選手によると、その日はグラウンドで自分を追い込み続け、さらに帰寮後もバットを振っていたという。
真摯に練習に取り組むと同時に、常に新たな刺激も求めてきた。97試合の出場で規定打席不足ながら打率.275を残した15年オフ。前年にアシックス社とアドバイザリースタッフ契約を結んだ丸に同行し、同社へと赴いた。
なかば押しかける形で、足形を取ってもらうなど特注シューズを作成。“足固め”を果たし、さらなる飛躍につなげた。その後、鈴木自身も17年に同社と契約を結んでいる。いい意味での図々しさも個性の一つだ。
6年連続で打率3割、25本塁打以上を継続中
16年から主力打者として球団のリーグ3連覇に貢献。さらに17年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、19年のプレミア12でも中心戦力として活躍した。しかし球界における立場が絶対的になればなるほど、ジレンマも感じるようになる。
18年から四球が急増し、昨年までの4年間で350。明らかに勝負を避けられる場面も増えた。ともすればマンネリを感じる環境。それでも刺激の発掘作業は忘れなかった。一つが若手の育成だ。
「本人達の努力は当たり前ですけど、少しのきっかけで野球人生が変わりますからね。せっかくいいモノを持ってこの世界に入ってくるんだし、後輩達みんなにうまくなってもらいたいですから」
近年は後輩に積極的にアドバイスする場面が目立つようになり、教え方の幅も広がった。さらに球界の先輩から受ける刺激も新鮮だった。
ヤクルト・青木が20年の契約更改交渉で38歳では異例の3年契約を結んだ。17年WBCのチームメートから聞いた話に心打たれた。「あの年齢で3年契約は凄いことですよ。結果が出なければ、批判だってさせるでしょうし。でも常に刺激を入れていかないと、と話されていた。それは僕も同感です」。野球人として、最高の刺激が海を渡ることだった。
16年から6年連続で打率3割、25本塁打以上を記録。王貞治(巨人)、落合博満(ロッテ、中日)以来、3人目の快挙だった。実力に疑いの余地はない。加えて刺激を求める本能と衰えない向上心がある。日米を股に掛けての「7年連続」に期待は膨らむ。
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