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【高校野球】甲子園の歴代ノーヒットノーラン達成者一覧、ダルビッシュを最後に途絶えたのはなぜ?

2022 8/11 06:00SPAIA編集部
甲子園球場,ⒸKPG_Payless/Shutterstock.com
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ⒸKPG_Payless/Shutterstock.com

プロは「投高打低」も高校野球は「打高投低」続く

2022年のプロ野球界で、異変と捉えられているのが「投高打低」だ。ロッテ・佐々木朗希の完全試合を含めてノーヒットノーランが6月までに4度。試合終盤までパーフェクトだった試合もあり、投手のレベルアップが打者を凌駕している。

翻って高校野球はどうだろうか。1974年の金属バット導入後は「打高投低」が顕著になり、本塁打数は年々増加。ラッキーゾーンの撤去、低反発バットや飛ばないボールの導入などパワー野球を抑制する動きはあったものの、抜本的な改革には至っていない。

甲子園でのノーヒットノーランは2004年センバツのダルビッシュ有(東北)が最後。夏の選手権では、あの松坂大輔(横浜)が決勝で記録した1998年以来、24年間も達成されていないのだ。

もちろん「打高投低」以外にも、複数投手を育てる高校が増えたことや、近年の球数制限による影響もあるだろう。それにしても完封勝利すら珍しくなったのはなぜだろうか。

センバツのノーヒットノーランは完全試合を含む12人

まずは、甲子園でノーヒットノーランを達成した投手を振り返っておこう。センバツ大会は以下の12人となっている。

選抜大会のノーヒットノーラン


1931年2回戦で灰山元治(広島商)が達成したのを皮切りに、戦前だけで4度。1951年の野武貞次(鳴尾)、1955年の今泉喜一郎(桐生)、1967年の野上俊夫(市和歌山商)を含め、木製バット時代に7度達成されている。

金属バット導入後は5度しかないが、そのうち2回は完全試合だ。1978年1回戦で松本稔(前橋)が比叡山戦で史上初めて達成し、1994年には中野真博(金沢)が江の川戦で達成した。夏の選手権を含めても完全試合はこの2度のみとなっている。

1991年には、同年夏に初優勝を遂げる大阪桐蔭の和田友貴彦が仙台育英戦で達成。2004年のダルビッシュは1回戦の熊本工戦で12三振を奪う快投だった。

夏の選手権では松坂大輔が最後

続いて夏の選手権は以下の通り。22人(23回)が快挙を達成している。

選手権大会のノーヒットノーラン


史上初のノーヒットノーランとなった1916年の松本終吉(市岡中)を始め、やはり金属バット導入前が18回と圧倒的に多いが、特筆すべきは嶋清一(海草中)だろう。1939年準決勝の島田商戦で8-0、決勝の下関商戦で5-0と2試合連続ノーヒットノーランで優勝。まさに球史に残る名投手だった。

1957年には2年生だった王貞治(早稲田実)が寝屋川戦に延長11回で達成。同年センバツで優勝していたが、夏は準々決勝で法政二に敗れ、春夏連覇はならなかった。

金属バット導入後では、センバツと同じく5度しかない。1981年には後にプロで224勝を挙げる工藤公康(名古屋電気)が達成。1982年には新谷博(佐賀商)が9回2死までパーフェクトながら27人目の打者に死球をぶつけ、ノーヒットノーランは達成したものの完全試合は逃した。

1987年には芝草宇宙(帝京)が東北戦で達成。1998年に1回戦で杉内俊哉(鹿児島実)、決勝で松坂大輔(横浜)が達成したのが最後となっている。

地域格差小さくなり、熱さも影響か

ノーヒットノーランが途絶えた理由は様々あるだろう。金属バットの性能が上がり、芯に当たらなくても打球は飛ぶようになった。それを活かすため各校が競ってウェイトトレーニングを取り入れ、ますますパワー野球に拍車がかかった。

甲子園に出てくる高校ともなれば鍛え方が違う。かつては「小さな大投手」や「バンビ」と呼ばれた華奢で細身の投手が勝ち上がることもあったが、今では一部の強豪校に限らず、たとえ地方の高校でも、投手も野手も立派な体格を誇示している。

ノーヒットノーランを達成するには、抜きん出た実力を持つ絶対エースがいるか、対戦相手との実力差が大きいことが条件のひとつになるが、近年は地域格差が小さい。雪国でも室内練習場があったり、ウェイトトレーニングで鍛え上げたり、ハンデを感じさせることが減っている。野球留学で各地に有望選手が散っていることもあるだろう。

もうひとつ考えられるのは、異常な暑さの影響だ。たとえドラフト1位指名されるような投手でも、酷暑の中で地方大会から一人で投げ切るチームは少ない。同等レベルの投手が複数いないと予選を勝ち上がれず、イコール、甲子園でも継投が増えることになる。「球数制限」があればなおさらだ。

ただ、今の傾向が今後も続くかどうかは不透明だ。プロでは動作解析など最新鋭の機器とデータを駆使して、より理想的なフォームで、より速い速球とより鋭い変化球を投げる投手が増えたことが、今季の「投高打低」につながっていると指摘する声が多い。その流れはいずれ高校野球にも波及するだろう。

今夏は準々決勝、準決勝、決勝の前日に計3日の休養日が設けられ、できるだけ選手への負担を少なくするよう配慮されている。レベルアップした投手がベストコンディションで投げることができれば、ノーヒットノーランが達成される日もいずれ来るはずだ。次の達成者はどんな投手だろうか。その瞬間を楽しみに待ちたい。

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