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日大三・小倉全由監督の野球部改革、選手を委縮させていた「草むしり」廃止

2022 8/4 06:00SPAIA編集部
日大三の小倉全由監督,Ⓒ上野裕二
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Ⓒ上野裕二

4年ぶり18回目の甲子園出場

第104回全国高等学校野球選手権が8月6日からいよいよ始まる。4年ぶり18回目の夏の切符を手にした日大三は、伝統の強打に加え、小技も駆使して11年ぶりの頂点を目指す。

『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)の小山宣宏氏は、同書と『一生懸命の教え方』(日本実業出版社)で小倉全由監督に30時間近くに及ぶインタビューを敢行した。そのときの話を基に、小倉がどのようにして今日の日大三を作り出してきたのか、その実態に迫った。

思いがけない選手の言葉に小倉は笑うしかなかった

春20回、夏18回の甲子園出場を誇る日大三は、小倉が監督に就任した1997年春以降、今年を含めて春7回、夏11回、全国優勝2回(2001年夏、11年夏)、準優勝1回(10年春)を記録している。だが、就任した当初は、思いがけないことの連続だった。

小倉は関東一で春夏合わせて4回の甲子園出場、87年春のセンバツでは準優勝という実績を残してきた。その間、日大三が甲子園に出場したのは、85年の夏、94年春の2回。事実上、低迷していた。日大三の監督の就任当初、小倉は、「関東一でやってきたことを実践すればいい」とだけ考えていた。

ところが、練習を見て愕然とした。フリーバッティングをやらせれば、フェンスオーバーする打球を飛ばす選手は皆無で、外野手の頭を超えるのがやっとだった。それ以上に気になっていたのが、選手の表情が皆暗かったことだった。そこで実戦形式のシートバッティングを行って、個々の選手の力量を判断しようと考えた。

先頭の選手が内野に打球を打ち上げ、アウトになった。直後、その選手がグラウンドの外に走り出そうとした。

「おい、トイレに行くのか?」

小倉が不思議そうに尋ねると、その選手はこう答えた。

「これから草むしりに行きます」

小倉は思わず「何言っているんだ?」と目を白黒させた。そこですかさず、

「ちょっと聞くけど、草むしりをやって野球がうまくなると思っているのか?」

そう質問すると、その選手は即座に、「いえ、全然思わないです」と答えた。小倉は笑いながら、「そうだよな、うまくなるわけがないよな」と返した。

このとき小倉は日大三がなぜ低迷していたのかが理解できた。野球の技術とはまったく関係のない、懲罰的なペナルティを与えたところで、選手の技術は伸びていくはずがない。それどころか、選手たちが野球に取り組む際のモチベーションを、著しく低下させていることにつながるのではないかと考えていた。

ミスを恐れ、委縮していた選手たち

直後、小倉は選手全員を呼んでこう宣言した。

「練習中にミスしても草むしりなんてさせないからな。シートバッティングで凡退したら素振り、ティーバッティング、マシンで打ち込む。これをどんどんやりなさい」

選手の目の色が変わった。彼らに必要なのは、野球をやる喜びだった。それが野球の技術向上にはつながらないペナルティを与え続けたことで、プレーそのものが委縮してしまっていたのだ。

選手がバットを思い切り振れるようになると、小倉は新たな指示を出した。

「外野後方のフェンスを越えるような打球を打ってみなさい」

当初は「いくらなんでもそれは無理ですよ」と控えめに話していた選手たちだったが、1週間、2週間と練習を積み重ねていくと、スイングそのものが鋭くなり、やがてフェンスオーバーの打球を放つ選手が2人、3人と次々に出てきた。バッターボックス内で、「やった!」と喜んでいる選手の姿を見た小倉は、こう声をかけた。

「お前さんは打つのが好きだから野球を始めたんじゃないのか?」

「はい、そうです。やっぱり遠くに飛ばすと気分がいいですね」

「ようし、今の気持ちずっと覚えているんだぞ」

それまで日大三の選手たちは、野球とはまったく関係ないペナルティを与えたことで、「ミスしちゃいけないんだ」とこじんまりとしたスイングになり、ボールを当てに行くバッティングになっていた。これではホームランはおろか、ヒットすら満足に打てない。

「もしペナルティを与えるのなら、野球の技術に関連したものでなくてはならないんです。素振りでもいいですし、ティーバッティングでもいい。それであれば選手たちも、『今のままではダメだ。もっともっとうまくならなくちゃいけない』と技術の向上を図ろうとする。当時の三高の選手にはそれが欠けていたんです」

野球の技術向上とかけ離れたペナルティを与えてしまっても、選手にとっては百害あっても一利もないということを、小倉はこのときの選手たちから学んだ。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


「一生懸命」の教え方

Ⓒ日本実業出版社


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