3年ぶり11回目の甲子園出場
第104回全国高等学校野球選手権が6日に開幕する。3年ぶり11度目の夏の甲子園出場を果たした八戸学院光星の仲井宗基監督に、『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が、コロナ禍における指導者が持つべき考え方について聞いた。
第104回全国高等学校野球選手権が6日に開幕する。3年ぶり11度目の夏の甲子園出場を果たした八戸学院光星の仲井宗基監督に、『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が、コロナ禍における指導者が持つべき考え方について聞いた。
22年5月になって、政府が「屋外で会話が少なければマスクを外してもいい」という見解を発表した。だが、コロナは人から人への感染、つまり会話をしたことによる飛沫感染が原因だということがわかっているだけに、いきなり「明日からマスクを取って練習しよう」ともなりにくい。
そのうえ21年夏の甲子園では、1回戦で宮崎商業、2回戦で東北学院、今年のセンバツでは大会直前に京都国際、2回戦で広島商業がコロナ感染者がチーム内で発生したとの理由で試合あるいは出場を辞退した。
マスクを外して、コロナ以前の状態に戻って練習をしたとき、大事な夏の予選前、あるいは予選中にコロナでクラスターが発生してしまったとなれば、間違いなく出場辞退に追い込まれてしまう。それだけに当分はマスクを外すのはケースバイケースによってという状況が続きそうだが、マスク越しでは選手の表情がわからないという仲井の意見には共感してしまう。
今後もコロナと共に生きていくなかで、どう対応をしていくのか。仲井は「指導者の思考の転換」が必要だと考えている。野球は勝敗を争うスポーツである。勝つことを目標に選手全員がグラウンド上で切磋琢磨して技術を磨いていくことには変わりはない。だが、一人ひとりに目を配り、「ここで悔いのない高校野球生活を送ってほしい」ということを今まで以上に仲井は考えるようになった。
仲井にとって甲子園出場とは、「人生の道しるべ」であると考えていた。目標を甲子園出場に置いたときに、その目標を達成するにはどんな計画を立てればいいのか、どんな準備をしていけばいいのか、今自分に欠けているものは何かなどを細かく分析し、目標に向かって進んで行く。その結果、甲子園にたどり着くべきであるというのだ。
だが、その「道しるべ」が2年前に突如としてなくなってしまった。この現実をどう受け入れるべきか、あるいはどう折り合いをつけるべきか。仲井は当時の3年生たちのために短い時間のなかで必死に考え、そうして新たな目標を作ってあげることができた。
仲井は「今まで通り野球だけ教えていればいい」「甲子園出場だけを目標に掲げていればいい」という指導者は、選手のほうからそっぽを向かれてしまうのではないかと考えている。「またコロナによって甲子園大会がなくなってしまうようなことがあったとき、あなたはどうしますか?」というクエスチョンに対して、明確に答えられるような指導者でなければ、単に「野球しか教えてくれない人」という評価を選手のほうから下されてしまうことだって大いにあり得る。
仲井は今、このような時代だからこそ、「野球の質を上げていく指導が大切」だと感じるようになった。たとえば全力疾走を怠らない、審判の判定に対して不満を顔に出さない、常に元気よくプレーするなど、これまで高校野球で当たり前だとされてきた行動について、選手たちに徹底させるべきだと考えている。
最近になって仲井が他校の監督と情報交換を行ったとき、「練習試合を組んでいたんだけども、相手でクラスターが発生してしまい、中止になってしまった」という話を聞いた。こうしたことはもはや他人事ではない。いつ自分たちの身に降りかかってくる問題となるのか、そこまで考えなくてはならない時代に今は突入している。
今の閉塞された状況を当たり前だと思って、日々の練習に打ち込むこと。そのときただハードに練習すればいいというものではない。日々の練習に対しても「今日は追い込む日」「今日は調整の日」というように、強弱をつけながら行っていくのも1つの方法だ。
コロナ禍の今、「出口のないトンネルに入っている」からこそ、「指導者が明かりをともせばいい」と考えている。このとき明かりとなるのは、「指導者の言葉」以外にない。
1年前の21年夏、八戸学院光星は青森県予選の準々決勝まで進んだ。けれども優勝した弘前学院聖愛に6対7で負け、2年連続で甲子園に出場できなかった。けれども今年は3年ぶりの甲子園出場を果たした。
「まだまだウチの選手たちはうまくなる」という仲井の言葉に期待し、これからも注目していきたい。
Ⓒ双葉社
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