コロナ禍で一昨年は大会中止、昨夏は県大会準々決勝で辞退
第94回選抜高校野球の出場校が発表され、北信越からは松井秀喜らを輩出した石川の名門、星稜が2年ぶり15度目の出場を決めた。全国屈指の常連校だが、今回は学校関係者もナインも、そしてOBたちも「2年分」の思いを抱えて臨む甲子園になる。
主将の佐々木優太捕手(2年)がシンプルな言葉に心境を込めた。
「僕たちの代は去年、その前と、2学年分の先輩たちの思いを背負っています」
最初の悲劇は2年前。今回と同じように選考会でセンバツ出場が発表されていたが、その時すでに日本にも忍び寄っていた新型コロナウイルスによってセンバツが中止になった。開催予定の甲子園が中止になるのは史上初。夏の甲子園も開かれなかった。救済措置として、夏に開かれた「交流試合」で1試合だけ甲子園の地を踏むことができたが、他の31校とともに夢舞台を奪われた学年となった。
その次の学年となる、今の高校3年生にも悲しい現実が襲った。昨年夏の石川県大会は優勝候補。躍進が期待されていたが、県大会のさなかに部員6人に新型コロナウイルスの感染者が出てしまった。遊学館との準々決勝を「辞退」するという苦渋の決断が下された。
林和成監督(46)は「おまえらが悪いんじゃない」と3年生部員と一緒に涙を流した。その後、夏の甲子園は開催された。中田達也前主将は「甲子園をテレビで見るのがつらかった」と振り返っていた。
林和成監督は選手全員とLINE
今度のセンバツ終了後に退任する林監督にとっては最後の「夏」が思わぬ形で奪われた。それだけにセンバツ決定の報にも笑顔はなく、むしろ責任感をにじませた。
「戦えなかった3年生、その前の3年生たちの2年分の思いを背負っている。彼らは立ちたくても甲子園に立てなかった。今回は挑戦権を得られたので、思いを背負って彼らの分まで頑張りたい」
2年続けて星稜を襲ったコロナ禍だが、逆境が成長にもつながった。昨年から林監督は選手全員とLINEでつながり、野球ノート代わりに報告を受け、指導をするようにもなった。選手個々に毎日の課題を挙げさせたりと、よりきめ細やかな指導に生かした。
なかなか会えない日々があっても、選手との距離は逆に縮まり、選手の考え、監督の考えを互いに伝えやすくなったという。林監督は「チームワークがよくて、最後まで粘れるのがいいところ」と現チームの成長に目を細める。
先輩たちの分まで「必笑」態勢
今の2年生(新3年生)は2代続けてコロナ禍にあった先輩たちを見ている代でもある。目立った大型選手はいない。昨秋は県大会から苦しい試合の連続。北信越大会も1点差、2点差、1点差で勝ちきり、決勝まで進んだ。
佐々木主将は「歴代の先輩たちは『必笑』をキーワードにしてきた。僕たちも、苦しい場面でも必笑と思って戦った。それが勝ちにつながったと思う。石川県の代表として恥ずかしくないプレーをして、優勝旗を石川県に持ち帰りたい」と大舞台を見据えた。
オミクロン株の感染拡大で予断は許さない状況だが、日本高野連の宝馨会長は昨夏の甲子園開催実績を根拠として「コロナが皆無でなくとも、センバツは開催したい」と宣言した。球児たちが、試合の勝ち負けで涙を流せるセンバツになることを願うばかりだ。
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