1球の暴投でベンチ入りできなかった最後の夏
今年も球児の夏がやってきた。広島の広陵高校野球部で青春時代を過ごした私は、この時期になると胸が高鳴る。
8年前、私の最後の夏は、広島県大会前のベンチ入りメンバーを決める最後の練習試合で投じた“たった1球”の暴投で幕を閉じた。
夏の県大会ではベンチ入りできずスタンドから応援。準決勝で現オリックスの山岡泰輔擁する瀬戸内と対戦し、エースの“たった1球”の暴投で逆転されて甲子園の夢は潰えた。
2年半の歳月をかけても、終わる時は一瞬だ。
126人いる部員の中から背番号「1」を勝ち取るため、誰よりも走り、誰よりも練習した。入部当初は練習に全くついていけず、持久走は常に後ろのグループ。それが悔しくてひたすら練習をしているうちに、持久走で私の前を走る選手はいなくなった。
投げるボールも見違えるように変わった。最速126km/hのボールは140km/hを超えるまでになった。そして見えてきたのは、「さらなる壁」だった。
140km/hを超えてもチームの球速ランキングで言えば7番目くらい。これでは勝てないと思い変化球を磨き、名将・中井哲之先生(広陵高校では「監督」と呼ばない)に「山岡張りのスライダーを放るのう」と褒めていただいたが、チームメイトたちは見たことのない軌道のカーブやチェンジアップを簡単に投げてみせた。
広陵野球部で1/126人をつかみ取り、広島県大会で1/96校の切符を手に入れ、甲子園で1/4048校(2013年当時)の頂点に立つ。今振り返ると、めまいがするような挑戦だ。
どんなに努力しても、高校野球は“たった1球”で終わる。この不条理で無謀な挑戦に、毎年10万人を超える球児たちが挑戦している。だからこそ、高校野球は奥が深い。