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元NFLのスターQBがWBCフィリピン代表に ティム・ティーボウのさらなる挑戦

2020 3/10 17:00末吉琢磨
WBCフィリピン代表としてプレーするティム・ティーボウⒸゲッティイメージズ

Ⓒゲッティイメージズ

WBCフィリピン代表となった元NFL選手

野球の国・地域別対抗戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2021年大会の予選が、来たる3月12日から米国アリゾナ州トゥーソンにおいて開催される。この予選は、今大会から増枠された本選出場4枠を争うもの。前回大会で本戦に出場し、予選免除が決まっている16ヶ国を除く12の国が参加することになっている。アジアからは、フィリピンとパキスタンが参加し、日本や韓国などに続く本選出場枠獲得を目指す。

そのフィリピン代表の1人として、現在メジャーリーグ(MLB)、メッツ傘下のマイナーリーグに所属する外野手、ティム・ティーボウがプレーすることになったと、WBCオフィシャルが先日Twitter上で発表した。ティーボウはかつてデンバー・ブロンコスのQBとして活躍した元NFL選手だったが、現在は野球選手に転身し、MLBでプレーすることを目指し奮闘している。

2つのメジャープロリーグで活躍することを目指す彼は、国籍とは違う国の代表としてWBC出場を目指すという、また別の挑戦を決めたことになる。そんな挑戦を続ける彼の人生を、ここでは紹介していきたい。

フィリピン生まれのアメリカ人

両親は共にアメリカ人で、本人もアメリカ国籍を持つティーボウだが、生まれはフィリピンの首都マニラだ。両親が敬虔なクリスチャンで、その布教活動をマニラで行っていたときに彼は生まれ、4歳までフィリピンで過ごしている。

その後、米国に帰国し、両親同様に敬虔なクリスチャンとなった彼は、布教活動のため毎年のようにフィリピンを訪れていたという。2014年には、ダバオ市に子供をケアするための施設も開いている。このようにフィリピンとの関りが深いことから、今回WBCフィリピン代表から参加要請の声がかかることになったのだ。

カレッジフットボールのスーパースター

そんなティーボウがその名を全米に知られるようになったのは、大学フットボール選手としての華々しい活躍からである。名将アーバン・メイヤーのもと、彼はクオーターバック(QB)としてフロリダ大学を率い、全米王者決定戦、BCSナショナルチャンピオンシップに勝利したのだ。その年は、全米最優秀選手賞にあたるハイズマン賞の最終候補にまでなっている。

大学終了後は、もちろんプロを目指すべくNFLドラフトへの参加を表明。デンバー・ブロンコスに1巡指名を受け、彼の「最初」のプロキャリアはこうして始まったのだ。

ブロンコスの救世主として

当時のブロンコスには、エースQBとしてカイル・オートン、第2QBとしてブレイディ・クインがいた。そのため1年目の出場機会は限られてしまうが、2年目のシーズンに転機が訪れる。チームが開幕から1勝4敗と低迷したところで、ヘッドコーチはティーボウを先発に起用する決断を下したのだ。

彼が先発に起用されて以降にチームは7勝をあげ、奇跡のプレーオフ進出を果たすことになる。その7勝のうち3勝が延長戦の末の勝利だったこともあり、彼が演出するドラマティックな勝利と、TD後に神に感謝する「ティーボウイング」と呼ばれた祈りのポーズによって、ティーボウは一躍全米の人気者となった。

NFLキャリアの終焉

勝利を引き寄せる天運と、その人気によって、ブロンコスのエースの座を掴んだかに見えたティーボウだが、その絶頂期も長くは続かなかった。彼のNFL最低レベルのパス成績を不安視したチームは、インディアナポリス・コルツを解雇された伝説的なQB、ペイトン・マニングと契約したのだ。

これにより彼はトレードに出されることになってしまう。トレード先のニューヨーク・ジェッツで十分な出番を与えられなかった彼は、2012シーズンを最後に、再びNFLの舞台に姿を現すことはなかった。

野球選手としてメジャーリーグを目指す

最後にNFLの公式戦に出場した2012年から4年後、ティーボウはプロ野球選手への転向を表明し、人々を驚かせることになる。もちろん、それは冗談ではなく、多くのMLBチームを招待した個人トライアウトを自身で開催し、プロ入りを本気で目指したのだ。

日本の高校2年生にあたるシーズンに、打率.494の高打率を残して以後、真剣に野球をする機会がなかったティーボウだったが、その運動能力を見込まれ、見事メッツとのマイナー契約にこぎつける。彼は2つの異なった競技でプロスポーツ選手となり、メジャーリーガーになるという新たな道を歩み始めたのだ。

フィリピン代表としてWBC予選出場へ

そんなティーボウのメジャーリーグへの道は、現在のところ順風満帆ではない。プロ契約後の3年間で残したマイナーリーグでの通算成績は、打率.223、ホームラン僅か18本。現在32歳の彼に残されたメジャーへの時間は、ほとんどないといっていい。

そんな彼にとって、今年メジャーキャンプの招待選手になれたことは、千載一遇のチャンスであった。しかしティーボウは、そのチャンスを捨ててさらなる挑戦の場として、WBC予選の舞台に立つことを選んだのだ。

挑戦を続ける彼の人生は、まるで大航海時代に世界中に布教を行った宣教師たちのようだ。命の危険を顧みず、自分の信じる道を進んだ宣教師たち。その同じ魂をティーボウは持ち、その挑戦の舞台、WBC予選に挑むことになる。

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