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女子やり投げ北口榛花、日本新記録の先に見据える世界記録とチェコ元女王

2023 9/14 06:00田村崇仁
北口榛花,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ダイヤモンドリーグ・ブリュッセル大会は足滑らせて日本新

満員の会場がどよめく一投だった。9月8日、ベルギー・ブリュッセルで行われた陸上の世界最高峰シリーズ、ダイヤモンドリーグ(DL)第13戦で、女子やり投げの北口榛花(JAL)が67メートル38の日本新記録で優勝し、今季3勝目、通算5勝目を挙げた。

8月の世界選手権(ブダペスト)で初の金メダリストに輝いた25歳は、7月のDLシレジア大会で自らがマークした67メートル04を34センチ更新。記録を確認すると、子どものように跳びはねて選手仲間と抱き合って喜びを爆発させ「自分でもびっくり。ちょっとだけ更新できてよかった」と茶目っ気たっぷりに笑った。

日本記録を更新した最後の6投目は目の肥えたブリュッセルの観客に手拍子を促し、リズミカルな助走に入った。だが本人も驚いたのはここからだ。最後に足を滑らせて前につんのめるような形になるハプニング。体が宙に浮いて体勢を崩しながらも、鋭く放たれたやりは夜空へ一直線。

「初めてあんなに転んじゃって。最初に足首の心配をしました」と屈託なく笑ったが、美しい弧を描いた会心の投てきは、準優勝のビクトリア・ハドソン(オーストリア)に2メートル73センチ差をつける圧勝だった。

やりなげ大国チェコ、憧れの女王シュポタコバ

単身でやり投げ大国チェコに乗り込み、5年目。コーチを務めるチェコ人のダビド・セケラク氏と知り合い、指導を直談判して急成長してきた。この日も二人三脚で強化に励むセケラク氏から「よくやった!」とねぎらいの言葉をもらった。

海外では流ちょうなチェコ語で現地メディアに対応する姿がすっかり板につき、その愛嬌あふれる人柄もあって人気者だ。

そんな北口が憧れる存在は、やり投げの世界記録保持者で2008年北京、2012年ロンドン五輪を2連覇したバルボラ・シュポタコバ(チェコ)。2022年に41歳で引退したが、72メートル28の世界記録を持ち、世界選手権でも2度、頂点に立っている鉄人だ。チェコだけではなく、他の国に行っても応援されるチェコの偉大な先輩の背中を追っている。

次の目標は68メートル台の日本新

実はDLブリュッセル大会は前日の移動で頭痛も抱えるほど体調は万全でなかった。それでも世界選手権の疲労も残る中で2投目に完璧でない投てきながらも65メートル台でトップに立つと、1投目以外は60メートル越えの安定感。

59メートル台だった1投目から投げ出す角度や助走の修正を重ね、最後の6投目は「絶対まとめなきゃいけない。1投目から修正、修正、修正。最終的にそれなりにまとめられているのが今シーズン」と全神経を研ぎ澄ました。

8月の世界選手権でも最後の6投目で豪快な一投を見せ、逆転優勝のドラマを演じた。技術的な探究心を徹底し、最終投てきでの強さは北口ならではの真骨頂でもある。

今大会の優勝で年間上位選手で争う9月16、17日のファイナル(米オレゴン州ユージン)へも弾みをつけた。「記録も狙っていかなくてはいけない。まずは65メートル以上、そして68メートル台を目指して頑張りたい」とトレードマークの笑顔で日本記録の更新へ声を弾ませた。その先に世界記録の夢も膨らませていく。

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