アジア新記録で4位入賞
陸上の世界選手権最終日に、日本男子1600メートルリレーが快挙を成し遂げた。
メダルには届かなかったものの、2分59秒51のアジア新記録で4位入賞。日本のリレーと言えば、今や「4継(よんけい)」こと400メートルリレーが有名だが、かつては「マイル」こと1600メートルリレーの方が世界と伍する種目だった。「お家芸」の復活には何があったのか。
陸上の世界選手権最終日に、日本男子1600メートルリレーが快挙を成し遂げた。
メダルには届かなかったものの、2分59秒51のアジア新記録で4位入賞。日本のリレーと言えば、今や「4継(よんけい)」こと400メートルリレーが有名だが、かつては「マイル」こと1600メートルリレーの方が世界と伍する種目だった。「お家芸」の復活には何があったのか。
日本の布陣は1走から佐藤風雅(那須環境)、川端魁人(中京大クラブ)、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)、4走中島佑気ジョセフ(東洋大)。序盤は出遅れた日本だったが、エースのウォルシュが順位を上げ、アンカーの中島も粘って4位に食い込んだ。
この種目の4位というのは五輪、世界選手権の「世界大会」で見ると、2004年アテネ五輪の4位以来。世界選手権では史上最高順位だ。
それでも選手たちは一様に悔しい思いを口にした。ウォルシュは「本当に正直ただ悔しくて。このメンバーで銅メダルを狙っていたので。メダルはすぐそこだと思うので切り替えたい」。銅メダルのベルギーとの差は0秒79差だった。中島は「本当に悔しい。メダルの実力があると信じていた。本当にあともうちょっとだった。あの差が世界との差」と話した。
冒頭にも書いたが、日本のリレーと言えば、1人が100メートルを走る400メートルリレーを頭に浮かべる人が多いだろう。2008年北京五輪で銀メダル(他国のドーピング違反により、銅メダルから繰り上げ)を獲得し、2016年リオデジャネイロ五輪でも再び銀メダルに輝いた。「リレー侍」と言えば、400メートルリレーのメンバーを指す。
だが、1990年代後半から2000年代前半にかけて、メダルに近かったのは「4継」ではなく、「マイル」と呼ばれる1600メートルリレーだった。
1996年アトランタ五輪では5位入賞。2004年アテネ五輪では銅メダルまであと0秒09差の4位だった。アテネ五輪では400メートルリレーも4位だったが、銅メダルとの差は0秒26。1600メートルリレーの方がメダルに近い存在だった。
しかし、アテネ五輪を最後に日本の「マイル」は衰退していった。アテネの翌年のヘルシンキ世界選手権で、失格で予選落ちすると、転げ落ちるように世界で戦えなくなった。
理由の一つは個の力の衰退だった。400メートルを44秒台で走る選手は日本史上、44秒78の日本記録を持つ高野進しかいないが、1990年代後半から2000年代前半にかけては、45秒台で常時走れる選手が複数いた。アテネ五輪の個人種目で見れば、男子400メートルには最大出場枠の3人が出場していた。個人のタイムは世界で勝負するには厳しいものだったが、層の厚さがあった。だから、リレーは強かった。
だが、世代交代がうまくいかなかった。「マイル」低迷期の日本で、45秒台が常時出せたのは、昨年引退した金丸祐三ぐらいだった。個人種目の男子400メートルに出場できるのも、金丸のみという時代が続いた。そのため、リレーメンバーもなかなか固定されず、チームで世界と戦うという図式がつくれなかった。
低迷期中、2009年ベルリン世界選手権には出場することすらできなかった。世界選手権では1983年の第1回大会から全て出場していたのに、それが途切れた時だった。
復活の理由も、やはり個の力と言えるだろう。自己記録で見ると、1走佐藤が45秒40、2走川端が45秒73、3走ウォルシュが45秒13、4走中島が46秒07と、ほとんどの選手が45秒台になった。
さらに、今大会では個人種目の400メートルに最大出場枠となる3人がエントリーした。世界大会では2004年アテネ五輪以来のこと。さらに、3人の中からウォルシュと佐藤が準決勝に進出した。個の力の躍進を証明した。
ただ、個の力が伸びた要因の一つに、強化側の思いがあったことを忘れてはならない。
2014年に始まった世界リレーには毎回「マイル」のメンバーを派遣した。大会の「格」としては、五輪、世界選手権には及ばないものの、「世界」の名の付く大会で強豪に挑み、2019年大会では4位、2021年大会はコロナ禍で強豪国が辞退したこともあったが、銀メダルに輝いた。
日本陸連の強化関係者には「『4継』だけではなく、『マイル』を復活させたい」という思いは強く、1600メートルリレーの強化も地道に行ってきた。その一つの結果が、このオレゴンで現れたと言える。
次回の世界選手権はブダペストで来年に開催される。1年後、再び日本初のメダルに挑むことになる。
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