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サニブラウンの100m決勝進出は9秒台よりも高い価値、90年ぶり大偉業

2022 7/18 06:00鰐淵恭市
サニブラウン・ハキーム,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

世界陸上男子100メートル、10秒06で7位入賞

米国オレゴンで開催されている陸上の世界選手権男子100メートルで、サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)が快挙を成し遂げた。五輪、世界選手権といった「世界大会」の日本選手としては実に90年ぶりとなる決勝進出を果たし、7位入賞した。

決勝を終えたサニブラウンはこう語った。

「準決勝で使い切った感じがあって、体の動きはよかったけど、最後のツメが甘かった」。そう反省はしつつも、快挙には納得顔だ。「準決勝より(決勝は)全然緊張しなくて、冷静でした。ものすごく悔しいけど、出し切った。最終的には満足できる世界陸上になっていると思う」

予選で全体6番目のタイムとなる9秒98をマーク。この時点で決勝進出を期待させた。準決勝は10秒05で1組3着。自動で決勝に進む2着以内には入れなかったが、タイムで決勝に進んだ。決勝は10秒06。タイムは徐々に下がったものの、そのパフォーマンスは称賛に値する。

「暁の超特急」吉岡隆徳以来のファイナリスト

日本短距離界には二つの悲願があった。一つは9秒台。それは2017年に桐生祥秀(当時東洋大)が9秒98をマークし、壁を突破した。

もう一つは世界大会でのファイナリスト、つまりは決勝進出だった。これは9秒台を出すよりも価値が高いと言われた。9秒台は過去に100人以上がマークしているが、ファイナリストは毎回8人のみ。タイムは条件で左右されるが、ファイナリストは絶対的な強さでもある。

過去には日本のファイナリストがいた。90年前のロサンゼルス五輪で「暁の超特急」と呼ばれた吉岡隆徳が決勝に進み、6位に入賞した。サニブラウンの決勝進出は吉岡以来のことである。

標準的なタイムで決勝へ

10秒05というタイムでの決勝進出の「価値」について考えてみる。

世界大会での男子100メートル決勝進出ライン


2000年以降の世界大会の決勝進出ラインをまとめてみた。それを見ると、2015年北京世界選手権が最も高く9秒99。タイムは条件に左右されるので一概には言えないが、10秒05では決勝に進めなかったことになる。リオ五輪や東京五輪でも同様だ。

だからといって、今大会のレベルが低いわけではない。2000年以降の17大会で見れば、決勝進出ラインは8番目のレベルの高さで、ちょうど真ん中になる。フライングのルール変更などもあり、一概に比較はできないが、レベルが低い大会とは言えない。

2000年以降で「11度目の正直」

また、表を見れば分かるが、日本選手は準決勝の壁に何度もはね返されてきた。2000年以降で言えば、10回準決勝で敗退した。

伊東浩司、朝原宣治、末続慎吾、山縣亮太、桐生祥秀……。日本の短距離界を牽引した選手たちも乗り越えられなかった壁を、サニブラウンは乗り越えた。それは日本短距離界が、新たな世界に入ったことを意味する。

サニブラウンはまだ23歳。これからどんな景色を見せてくれるのか。夢は膨らむ。

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