「これから何がやりたいのかを考えたい」桐生祥秀
陸上男子100メートルで日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀(日本生命)が休養を宣言した。これからの陸上人生について考えた上で復帰するという。桐生に限らず、近年は五輪後に休養するアスリートが増えてきた。桐生のケースを考えるとともに、過去に休養した選手を振り返る。
6位に終わった日本選手権の後、桐生はツイッターで休養を宣言した。
「陸上人生でこれから何がやりたいのかしっかりと考える時間を作る事にしました。試合で走りたい!陸上やりたいと思うまで少しお休みします。今シーズンは試合には出場しません」
桐生は気持ちが走りに直結するタイプ。確かに今季の走りには「気持ち」がいま一つ感じられなかった。
桐生は社会人5年目の26歳。まだ若いが、10秒01をマークして一気に注目を浴びたのが2013年。すでに10年近く日本の短距離界の先頭を走ってきた。その大半は「日本人初の9秒台」という期待を背負って走ってきた。
9秒台を出す前は「いいタイムで走っても、9秒台でないと観客のため息が聞こえてくる」と漏らしたことがある。若くしてプレッシャーと戦い続けてきた。
そして重圧をはねのけ、2016年リオ五輪男子400メートルリレーで銀メダルを獲得し、2017年には日本人初の9秒台をマークした。彼の中には精神的疲労と達成感の両方があるのではないか。高校時代から大きな目標としていた東京五輪も終わり、今後の目標がぼやけても仕方がない。
重圧、年齢……アスリートの休養の理由
2016年リオ五輪後は、一時的に競技から離れるアスリートが現れた。
競泳男子400メートル個人メドレー金メダリストの萩野公介も24歳だった2019年3月から約2カ月休養した。
リオ五輪後にプロになり、さらなる飛躍を期待されたものの、記録は伸び悩んだ。ケガや重圧などが重なり、「どうしたらいいかわかんなくなった」のだという。
復帰後は東京五輪に出場し、200メートル個人メドレーで6位入賞。期待されたメダルには手が届かなかった。
レスリングの伊調馨は女子個人種目としては史上初となる五輪4連覇を達成した後に休養に入った。32歳だった。休養の決断の裏には、年齢や体力、回復の遅さとの葛藤があったという。
所属のALSOKでアスリートが在籍する教育・訓練部から広報部へ異動し、会社員生活もした。満員電車に揺られて通勤することもあった。
約2年後に復帰し、2018年全日本選手権を制した。ただ、ライバルの台頭もあり、東京五輪出場はかなわなかった。
自らの競技を研究した大野将平
現役柔道家の中で最強の1人と言われる大野将平(旭化成)もリオ五輪後に休養した1人だ。
男子73キロ級で5試合のうち4試合で一本勝ちし、頂点に立った。24歳だった。その直後から母校の天理大大学院で柔道の研究を始めた。「人間、毎日は頑張れない」という思いがあったという。
自身の得意技である大外刈りをテーマに修士論文を書いた。相手を崩し、決めるまでの一連の動きを科学的に解析した。
競技に復帰したのは約1年後だった。技のキレが戻るのに時間がかかったものの、東京五輪では再び金メダルに輝いた。
桐生はどうなる
過去の例を見ると、復帰後に活躍できた選手、休養前のパフォーマンスに戻らなかった選手と様々だ。桐生はどっちになるのだろうか。
関係者によると、2024年パリ五輪への意欲は全く失われていないという。試合で走りたいと思い、桐生が言う「強くなって戻ってきます」という日が来るのを待ちたい。
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