「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

100年で2秒短縮…陸上男子100メートル日本記録の変遷

2021 6/7 06:00SPAIA編集部
(左から)小池祐貴、サニブラウン・アブデル・ハキーム、桐生祥秀Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

飯島秀雄がメキシコ五輪で10秒34

陸上の山縣亮太が6月6日の布勢スプリント男子100メートルで、サニブラウン・アブデル・ハキームが持っていた日本記録の9秒97を0秒02縮める9秒95をマークした。東京オリンピックに向けて日本陸上界の短距離陣は、いつになく機運が盛り上がっている。わずか10秒に凝縮された男たちのドラマが待ち遠しい。

0秒01を短縮するために血の滲むような努力をしてきたスプリンターたち。その歴史を知ることで、記録の重みや価値をより知ることができるだろう。そこで、これまでの100メートル日本記録の変遷を振り返ってみたい。

陸上男子100メートルの日本記録変遷


最初に認定された日本記録は1911年の12秒0。手動計時だったため誤差はあるだろうが、約100年で2秒以上縮めたことになる。

1932年ロサンゼルス五輪で6位入賞し、「暁の超特急」と呼ばれた吉岡隆徳が世界タイ記録の10秒3をマークしたのが、1935年6月15日に行われたフィリピンとの対抗戦だった。

電動計時で最初に認定された日本記録は、1968年のメキシコ五輪で飯島秀雄がマークした10秒34。それから19年後の1987年に行われた東京国際ナイター陸上で、ベン・ジョンソンと走った不破弘樹が0秒01更新すると、翌1988年には青戸慎司が四大学対校で10秒28を記録し、初めて10秒3の壁を突破した。青戸はソウル五輪4×100mリレー、バルセロナ五輪100mと4×100mリレーに出場し、1998年にはボブスレーで長野冬季五輪にも出場している。

さらに1990年に当時、東農大二高の3年生だった宮田英明が10秒27をマークすると、2年後の1993年には当時日大の井上悟が一気に0秒07縮める10秒20を記録。ハイペースで日本記録が更新されていった。

3度も記録更新した朝原宣治、9秒台に迫った伊東浩司

高速化の波に乗って颯爽と現れたのが朝原宣治だった。同志社大在籍中だった1993年の国体で10秒19をマーク。「和製カール・ルイス」と呼ばれ、一躍スターダムを駆け上がることになる。

1996年の日本選手権で10秒14と自らの記録を更新すると、翌1997年のローザンヌ・グランプリでは10秒08と3度目の日本記録更新。ついに10秒0台に突入した。

オリンピックには4大会連続出場し、2008年北京五輪では4x100mリレーのアンカーとして銀メダルを獲得。日本男子トラック種目でオリンピック初のメダルとなった。

朝原が3度目の日本記録更新を果たした翌1998年、夢の9秒台目前に迫ったのが伊東浩司だった。12月13日に開かれたバンコクアジア大会の男子100m準決勝。追い風1.9メートルに乗って出した記録は、速報タイムで9秒99だった。伊東は跳び上がって喜んだが、程なくして10秒00に訂正され、9秒台は幻となった。

桐生祥秀が初の9秒台、2年後にサニブラウンが新記録

9秒台突入は時間の問題かと思われたが、数多のスプリンターが壁にはね返され、奇しくも不破が飯島の記録を更新した時と同じ19年の歳月が流れる。

2017年9月9日、日本学生対校選手権。福井運動公園陸上競技場には1.8メートルの追い風が吹いていた。好スタートを切った桐生祥秀は「ジェット桐生」と呼ばれる天性のスピードを発揮。9秒98と表示されると大歓声が沸き起こり、桐生も全身で喜びを表現した。日本人で初めて9秒台に突入した瞬間だった。

桐生の記録を0秒01塗り替えたのがサニブラウン・アブデル・ハキーム。2019年5月に9秒99をマークすると、同年6月6日、米テキサス州オースティンで行われた全米大学選手権準決勝で、追い風2.4メートルの参考記録ながら9秒96をマークし、翌7日の決勝では追い風0.8メートルの条件で9秒97の日本新記録を樹立した。

その後、同年7月20日にはダイヤモンドリーグ・ロンドン大会で、小池祐貴も追い風0.5メートルで9秒98をマーク。日本の男子短距離勢は9秒台の争いに突入した。

そして、冒頭で触れた山縣亮太が9秒95をマークしたのが2021年6月6日。追い風2.0メートルの絶好の条件で新記録が誕生した。東京オリンピックは7月23日開幕。男子100メートル決勝は8月1日に予定されている。1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳以来の日本人ファイナリスト、さらに日本人初のメダリストは誕生するか、楽しみでならない。

《関連記事》
100年で1秒短縮…陸上男子100メートル世界記録の変遷
隆盛再び!男子マラソン歴代日本最高記録の変遷
15年間破られていない女子マラソン日本最高記録の変遷