「鳥人」ブブカを上回る史上最高の逸材
かつて陸上界の「鳥人」といえば、男子棒高跳びの元世界記録保持者、セルゲイ・ブブカ(ウクライナ)だった。
1988年ソウル五輪で金メダルを獲得し、世界選手権は1983年から6連覇。1985年に世界で初めて6mの大台を跳び、世界記録を計35回(屋外17、室内18)も更新。誰も手の届かない伝説的な存在となった。
そんな偉大な「鳥人」ブブカを超え、現代の陸上界で「新鳥人」と称されるのが22歳のアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)だ。2018年には史上最年少で6mの大台に突入すると、2020年には世界記録を2度も更新。米メディアによると「最も大きな目標の一つだった」という2021年東京五輪は6m02に成功して金メダルに輝いた。
「ブブカは自分の幼少期からのアイドル。彼のビデオを見ながら育った」と語る。現在の棒高跳びの記録は室内、屋外を問わず公認されており、新王者は室内で6m20の世界記録、屋外で6m16の世界最高記録を持つ。7月16日(日本時間)開幕の世界陸上(米国ユージン)でどこまで異次元の記録を伸ばすのか注目される。
3月に世界新更新、6月に地元で屋外世界最高
身長181cm、79㎏。驚異的な身体能力と天性のバネを持つ「新鳥人」は今季も好調だ。6月30日、地元ストックホルムでのダイヤモンドリーグ第8戦で、屋外での世界最高記録を更新する6m16で制し、大観衆の声援に応えた。
屋外の世界最高は2020年9月、ローマで開かれた競技会で6m15をクリア。君臨していたブブカの記録を26年ぶりに1㎝上回っている。
室内では2020年2月8日にルノー・ラビレニ(フランス)の世界記録を6年ぶりに1㎝塗り替える6m17を跳ぶと、2月15日にはさらに1㎝更新する6m18をクリア。2022年3月の世界室内選手権(ベオグラード)では6m20の世界新記録で優勝し、約2週間前にマークした自身の記録を1㎝更新した。
バーに体が触れながらまだ余裕もあり、異次元の跳躍で歴史を塗り替えた瞬間だった。
陸上一家、自宅の庭に棒高跳びの設備
父のグレッグは棒高跳びで自己ベスト5m80をマークした米国のトップ選手で、母のヘレナはスウェーデンの七種競技選手という陸上一家。米国育ちだが、7年前に母の国籍を選択した。
3歳で棒高跳びを始め、7歳で2m33をクリアしたのをきっかけに、年齢別世界最高を次々に更新。18歳で出場した欧州選手権は6m05の世界ジュニア記録で制覇した。
米ルイジアナ州の自宅の庭に棒高跳びの設備がある恵まれた環境で育ち、17歳で日本記録を7センチ上回る5m90を跳んだ。2019年の世界選手権(ドーハ)は5m97で銀メダルに終わったものの、今や「ゾーンに入っている感じ」と誰にも負けないような強さを持っている。前世界記録保持者のラビレニも「彼の時代が来ることは分かっていた」と認める。
「世界記録を更新することも大会に勝つことも大事」という「新鳥人」は今夏の世界陸上でどこまで記録を伸ばせるのか。その跳躍から目が離せない。
【関連記事】
・世界陸上で注目の「ダイヤモンドアスリート」とは?サニブラウン、北口榛花、橋岡優輝らに期待
・100年で1秒短縮…陸上男子100メートル世界記録の変遷
・陸上男子100m世界歴代10傑、フレッド・カーリーはボルトの後継者になるか