日本陸連の有望アスリート育成システム
18回目を迎える陸上の世界選手権が、7月16日(日本時間)に米国オレゴンで開幕する。日本からは自国開催以外では最多となる、男子41人、女子27人の計68人がエントリーした。2024年パリ五輪へ向けた第一歩となる今大会では、ある「認定」を受けた選手たちのメダル、入賞が期待されている。
ある「認定」とは、日本陸連が2015年から始めた「ダイヤモンドアスリート」だ。日本陸連のHPにはこう説明がある。
「陸上競技を通じて、競技的にはもちろん、豊かな人間性を持つ国際人となり、今後の日本および国際社会の発展に寄与する人材として育成することを狙いとする。個を重視したアスリート育成のためのプログラムを準備し、アスリートの成長と競技力向上を多面的にサポートする。アスリートを指導するコーチの育成も必須であるため、ハイパフォーマンスコーチ養成と連動したプログラムを展開する」
簡単に言えば、五輪や世界大会での活躍が見込める潜在能力の高い若手を選んで、中長期的に育成していくエリートシステムだ。これまで30人近いアスリートが認定を受けている。
潜在能力を評価するため、認定時点ではダイヤモンドアスリートよりも記録のいい選手が選ばれなかったこともあり、当初は懐疑的な見方もあったが、徐々に成果を上げてきている。今回の世界選手権でも活躍が期待されそうな、ダイヤモンドアスリートが複数いる。
早くから頭角を現した男子100メートルのサニブラウン・ハキーム
ダイヤモンドアスリートの中で最も知名度が高い選手と言えば、サニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)だろう。
ガーナ人の父親を持つサニブラウンはダイヤモンドアスリートの1期生。サニブラウンのように、ダイヤモンドアスリートの中には外国にルーツを持つ選手が何人かいるのが特徴だ。
日本陸連の見立て通り、サニブラウンは世界大会で活躍していった。2015年世界ユース選手権では100メートルと200メートルの2冠。17年世界選手権では200メートルで7位入賞を果たした。
今年3月に23歳になったばかりで、さらなる飛躍が期待される年齢だ。今回の世界選手権では100メートルと400メートルリレーに出場予定。100メートルの今季のベストは10秒04だが、日本歴代2位で自己ベストの9秒97を上回る走りができれば、決勝進出も可能性を帯びてくる。
東京五輪で決勝進出、女子やり投の北口榛花
サニブラウン同様、ダイヤモンドアスリート1期生で結果を残しているのが、女子やり投げ日本記録保持者の北口榛花(JAL)だ。サニブラウンが2冠に輝いた2015年世界ユース選手権で北口も優勝している。
昨年の東京五輪では決勝に進出。12位で入賞はならなかったが、世界で戦える力を示した。今季は世界のトップ選手が集まる陸上のツアー大会「ダイヤモンドリーグ」の第7戦で優勝。日本選手が同大会で優勝するのは初めてのことだった。
7月9日時点の今季の世界ランキングでは7位(63メートル93)で、今回の世界選手権では決勝進出は当然のこと。入賞、そして、メダルを狙える存在だ。
陸上エリート一家の申し子、男子走り幅跳びの橋岡優輝
東京五輪男子走り幅跳びでは8メートル10の記録で6位入賞。俳優の横浜流星似のイケメンとして知られるようになった橋岡優輝(富士通)もダイヤモンドアスリート出身だ。
潜在能力という意味では、橋岡は分かりやすい。両親とも日本チャンピオンで、父は棒高跳び、母は三段跳びの元日本記録保持者。名選手の子どもが名選手になったパターンだ。
自己ベストの8メートル36は日本歴代2位。今年の日本選手権では、世界選手権参加標準記録(8メートル22)を上回る8メートル27で優勝した。8メートルを常時超えてくる安定感がある。
今季は世界ランキング5位。自己ベストを出せば、金メダルも狙える位置にいる。
期待されるのはダイヤモンドアスリートだけではない
ダイヤモンドアスリートの潜在能力の高さは間違いないが、認定を受けていなくても世界で活躍している選手は多い。
前回の世界選手権男子20キロ競歩で金メダルを獲得した山西利和(愛知製鋼)や、東京五輪で入賞した男子3000メートル障害の三浦龍司(順大)、女子中長距離の田中希実(豊田自動織機)らがそうだ。前回大会の日本のメダル数は3。今回はそれを上回る結果を期待したい。
【関連記事】
・世界陸上の「リレー侍」メンバーは大幅入れ替え?常連が落選の予感
・100年で1秒短縮…陸上男子100メートル世界記録の変遷
・陸上男子100m世界歴代10傑、フレッド・カーリーはボルトの後継者になるか