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福岡国際マラソン2位の細谷恭平、3軍から日本のトップへ「成り上がり」

2021 12/11 11:00鰐淵恭市
イメージ画像,Ⓒsportpoint/Shutterstock.com
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2時間8分16秒の好記録でパリ五輪有力候補に

最後の開催となった福岡国際マラソン(12月5日)で、2時間8分16秒の記録で日本選手トップの2位に入った細谷恭平(黒崎播磨)は「成り上がり」選手だ。学生駅伝では地味な存在だったかもしれないが、実業団に入ってから着実に力をつけ、今や2023年パリ五輪代表の有力候補にのし上がった。細谷とはいかなる選手なのか。

箱根5区で2年連続3位も地味な存在

茨城県の水城高校出身で、全国高校駅伝には3年連続出場。ただ、結果はふるわず、1年生の時は7区で区間14位。2、3年では花の1区を任されたが、それぞれ区間29位、25位だった。決して目立つような選手ではなかった。

中央学院大に進んだものの、右ひざ痛や両太ももの肉離れなど、けがが多かった。一時は「3軍」にいたのだという。ただ、その時に視察に訪れた黒崎播磨の渋谷明憲監督は細谷の接地の柔らかさに注目していた。

水泳や自転車でトレーニングをし、3、4年の箱根駅伝では山上りの5区を走り、2年連続区間3位だった。それでも同学年では、後にマラソン日本記録保持者になる鈴木健吾(神奈川大→富士通)や、田村和希(青山学院大→住友電工)のような知名度はなく、どちらかというと地味な選手だった。

マラソンの適性を実業団で開花

転機となったのは、走りの良さをいち早く見抜いてくれていた渋谷監督率いる黒崎播磨に入ったことだろう。2018年アジア大会代表の園田隼の練習パートナーを務めて力をつけた。

初マラソンとなった2020年びわ湖毎日は2時間28分47秒と惨憺たる結果だったが、2度目のマラソンとなった2021年のびわ湖毎日では2時間6分35秒で3位に入った。日本歴代6位の好記録だった。

細谷のマラソン選手としての適性が試されたのが今回の福岡国際だった。マラソンには一度だけ好記録を出す「一発屋」が多い。それだけに、「今回、細谷が好記録を出せばマラソン選手として本物」という声は多くの指導者から聞かれた。そして、細谷はその期待に応えたわけだ。そのことを細谷に伝えると「本当ですか」とうれしそうに笑った。

もちろん、課題もあった。日差しの強さや向かい風があったにしろ、最後は脚が動かなくなり、倒れ込みながらゴールした。細谷は「力を出し切ったことに間違いはないが、疲労がたまった後半の体の動かし方などが課題に挙がった」と振り返る。

2度目のマラソンに比べて、タイムが落ちたが、いい部分もあった。びわ湖で日本歴代6位をマークした時は、1キロ3分を切るハイペースにはつかず、後ろから追い上げる形だった。

だが、今回は1キロ2分58秒のハイペースで突っ込んだ。そのつけが終盤にきたわけだが、その積極性は評価できる。30キロ時点では先頭から遅れたものの、その後に追いつく粘りもみせた。苦しいレースではあったが、それでも2時間8分台でまとめたことをみても、細谷にはマラソンの適性があるのだ。

タイムよりも順位を狙う

今回のレースの前に結婚したばかりの26歳は、「今はタイムよりも順位を優先したい」と語る。どんな選手になりたいのか、という問いには「安定感のある、常に力を出し切れる強さを持った選手になりたい。今回は逃してしまい悔しいですが、タイトルを獲りたい」と話す。

今後は来夏の世界選手権代表と2023年パリ五輪代表を狙う。五輪代表選考会となるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の出場権は今回の福岡で手に入れた。細谷が日の丸をつける日は近い。

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