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大学三大駅伝って?〈2〉~大会の特徴は~

2016 10/31 16:16きょういち
東洋大学,Shutterstock
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Photo by Ludi1572/Shutterstock.com


「大学三大駅伝って?<1>~日本一を決めるのはどの大会?~」でも述べた通り、大学駅伝3冠を達成したのは過去3校だけです。1990年度の大東文化大学、2000年度の順天堂大学、2010年度の早稲田大学。意外に少ないなと思われるかもしれません。

その理由はいくつかあると思うのですが、一つにそれぞれの大会の特徴が違うという点にあります。簡単に言うと、出雲がスピード型のコース、全日本はバランス型、箱根は耐久型と言えるかもしれません。

三大駅伝 距離やコースの違い

三大駅伝の区間、距離などを表にまとめました。それを見ていただくと分かると思いますが、距離が全く違います。

大学三大駅伝,区間,距離

まず、三大駅伝の初戦となる出雲は、とにかく短い。大会自体が「スピード駅伝」をうたっていますが、まさにそのとおり。総距離は45.1キロでフルマラソンとほとんど変わりません。最長区間は10.2キロ。これは箱根の最短区間の約半分しかありません。

区間も六つしかなく、層の厚さがそこまで問われません。むしろ、これからを担う若手が使われる傾向にあります。高校生の時は、レースで最も長くても10キロぐらいまでしか走りません。それが大学生になると、箱根を目指すために20キロが走れるようにならないといけませんが、なかなか簡単なことではありません。その点、この出雲なら高校生の時に走っていた距離で勝負できます。だから、将来性のある1、2年生を起用し、大学駅伝デビューさせるのにはうってつけです。

「大学三大駅伝って?<1>」でも書きましたが、大学は箱根での優勝を最大の目標とします。出雲はそのためのステップアップの大会としてとらえられています。本気で出雲で勝ちたいと思うなら、ベストのメンバーを組むでしょうが、実際には今後をにらんだメンバーを入れることが多くなっています。

出雲の短さを強調してきましたが、短いことのメリットはあります。実力差があっても、そこまでタイムが開かなくなります。そのため、接戦になりやすい。終盤まで独走になりにくいですから、見ている方は面白いかもしれません。

駅伝らしいコースの全日本大学駅伝

次は建前上は「大学日本一」を決める全日本。全日本は短い区間から長い区間まであるバランスのとれた駅伝らしいコースが特徴です。20キロに耐えられる選手をいかにたくさん育てたかという要素が問われる箱根と違い、スタミナのある選手もいれば、スピードのある選手もいる、そんなチームに適したコースだと言えます。

全日本の最多優勝回数は駒沢大学の12回です。とにかく、駒沢大学は全日本に強い。その理由をかつて大八木弘明監督に聞くと、こう返ってきました。「選手を型にはめない。得意な距離で力を発揮させるように指導する」。やはり、そんなチームが勝てる大会なのだと思うのです。

近年の大学駅伝は東洋大学が台頭し、そして、今は青山学院大学の時代になろうとしています。最近は箱根でのこの2校の強さが際立っていましたが、全日本で見ると、東洋大学は昨年にようやく初優勝をしました。青山学院大学はいまだ優勝の経験がありません。もちろん、箱根が最大目標ですから、ピーキングは箱根に頂点をあわせますし、全日本でも箱根に向けて試したい選手を走らせるということも理由になるでしょう。でも、20キロを走れるタフな選手だけを育てたのでは全日本は勝てない、と言えるのではないでしょうか。

さて、全日本のコースを「バランスがとれている」と褒めてきましたが、問題もあります。全日本は名古屋の熱田神宮をスタートし、三重の伊勢神宮にゴールする厳かなコースなのですが、あまり起伏がありません。それゆえ、単純に走力の実力差が出やすく、なかなか終盤まで接戦が続かず、逆転劇が少ないと言われています。前半にリードしたチームが力を出し切ってそのまま逃げ切るという形が多いのですが、まさに駒沢大学がこのパターンで優勝を重ねています。コースの変更を求める声があるようで、いつか変更されるかもしれません。

関東以外の大学では全日本が最高の大会で、出場を夢見ている選手も多いのですが、実際に走ると関東勢に手も足も出ません。そのため、関東以外の大学をもっと減らし、関東を増やすべきという声もあるようです。

距離が長い箱根駅伝

最後に箱根です。表を見ていただければ分かりますが、圧倒的に距離が長いです。2日間にかけて行われることも違います。選手にはハーフマラソンを走りきる実力が求められます。だから、大学生ランナーは全国のハーフマラソンの大会によく出場しています。

箱根はハーフを走りきる選手層が問われます。走る人数で言えば、出雲が6人、全日本が8人、箱根が10人です。全日本から2人増えただけのように思えますが、ただの2人ではありません。全日本では短い区間もありますが、箱根では最低でも19キロ近くあります。タフな選手が最低でも10人はそろわなくてはなりません。かつて、全日本を制した年の駒沢大学が箱根で優勝できなかった時に聞きました。これも、大八木監督の話ですが「箱根は別もの。選手層の薄さが出た」と言っていました。それまでの二つの駅伝とは全く違うのです。

そして「特殊能力」が問われる駅伝でもあります。5区は箱根の山上り、6区は箱根の山下りです。ここ数年、「山の神」なる存在を聞くと思いますが、5区の山上りは平地の能力とは別物で、かつ、タイム差が実力差以上に出てしまいます。そのため、近年は5区を制するものが箱根を制す、という大会が多くなっています。

距離が長いと、本来は実力差が出やすく、接戦になりにくいのですが、この山があるために、逆転劇が生まれ、競ったレースを見ることができます。また、距離が長い上に正月の寒さもあり、選手にトラブルが起こりがちです。それが「ドラマ」となり、見ているもの「感動」をよびます。ただ、このトラブルがなければ、終盤は結構差がついてしまい、退屈なレースになりがちです。

東京・大手町にゴールすると、たくさんの人だかりができます。箱根人気を垣間見る場面ではありますが、この人気が「悪」だという人は少なくありません。次は、「箱根悪論」にふれたいと思います。


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