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大学三大駅伝って?〈3〉~箱根は悪なのか~

2016 12/26 11:01きょういち
陸上,ⒸShutterstock.com
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いよいよ、大学駅伝を締めくくる箱根がやってくる

 2016年も、あとわずか。大学三大駅伝を締めくくり、最も人気も注目度も高い「東京箱根間往復大学駅伝競走(通称・箱根駅伝)」が、いよいよ間近に迫ってきた。

 93回目となる今大会。今年の出雲と全日本を制し、1990年の大東文化大学、2000年の順天堂大学、2010年の早稲田大学以来となる史上4校目の大学駅伝3冠を狙う青山学院大学に注目が集まる。

注目の青学は「サンキュー大作戦」

 勝てば箱根も3連覇。11月の全日本では「エビフライ大作戦」をぶちまけた青山学院大学の原晋監督ですが、今回は「サンキュー大作戦」なんだとか。その心は「3連覇と3冠を狙う。そして、今回は原体制となって9度目の出場。感謝の気持ちを持って箱根路に臨みます」ということらしい。こんな作戦がスポーツ紙では大きく扱われる。これが30%に迫る視聴率をたたき出す箱根の人気なのである。

人気とは裏腹に、関係者にはびこる「箱根悪」論

 もう、ずいぶん前からだと思う。実業団の監督、それも名将と呼ばれる人たちと酒を酌み交わせば、よく聞く言葉がある。

 「箱根が悪い」
 「箱根が選手を勘違いさせる」

 長らく、日本男子マラソン界は世界で活躍できていない。その差は広げられる一方だ。1980年代は瀬古利彦、宗兄弟、中山竹通が活躍し、1991年東京世界選手権では谷口浩美が金メダル、1992年バルセロナ五輪では森下広一が銀メダルを獲得した。でも、マラソンが日本のお家芸だったのは、もう昔の話だ。

日本の学生は遅くなった?

 確かに男子マラソンの世界記録は2時間2分台に突入した。世界の記録はどんどん伸びている。かたや、日本記録は高岡寿成が出した2時間6分16秒が、2002年から更新されていない。日本のトップ選手の実力が伸びていないのである。

 では、そのトップの予備軍たる学生の力は落ちているだろうか。いや、違う。2008年北京五輪の5000メートルと1万メートルには竹沢健介(当時早稲田大学)が出場した。2013年世界選手権1万メートルには大迫傑(当時早稲田大学)が出場した。2016年リオ五輪には社会人2年目の村山紘太(旭化成)が5000メートル、1万メートルに出場した。日本選手権の上位に学生が入ることもざらである。

 学生の力が伸びるきっかけは、箱根人気にも一因がある。人気のある大会を目指して、より多くの子どもたちが長距離を走るようになる。底辺が広がるということだ。そして、箱根で勝ちたいから苦しい練習に取り組む。

 ではなぜ、実業団の指導者たちは箱根を悪というのだろうか。

箱根の距離に特化する学生たち

 一つには学生時代に箱根に特化した練習をしすぎることにある。若いときは短い距離でスピードを磨くべきと言われている。なのに、日本の大学生はハーフマラソンという、世界選手権、五輪にはない特殊な距離の力を磨く。なぜなら、箱根の1区間の距離がだいたいハーフマラソンと同じだからである。この強化方法が、その後の伸びを阻んでいるとも言われる。

勘違いする選手たち

 そしてもう一つは、加熱する人気そのものが、選手を勘違いさせているというところにある。

 筆者も10年以上取材していて、学生のスター選手への注目度、観客の声の大きさが、どんどん大きくなっていることは感じた。毎年1月にある全国都道府県対抗男子駅伝では、一般の方がレース後に選手に近づくことが可能なのだが、近年は学生のスター選手を多くの女性ファンが取り囲む。その中で、選手が自分という存在を見誤るとも言われている。

 確かに学生としては速いけれども、世界では戦えないのに、もう世界の頂点に立っているようなコメントが見受けられる。世界などには目を向けず、厳密な意味では関東大会である箱根のトップを取ることばかりに目が行く選手が多くなっている。

 2016年、出岐雄大という選手が現役を引退した。青山学院大学が強豪へとのし上がっていく時に、チームを牽引した選手だ。2012年のびわ湖毎日マラソンでは2時間10分2秒の好タイムをマークし、強豪の中国電力に進んだ。その出岐が引退する理由がこうだったと言われている。

 「箱根以上の目標を見いだせなかった」

 学生の関東大会の駅伝がすべてだったというのだ。彼のこのコメントは、箱根が生み出す負の部分を如実に表しているかもしれない。

打算的になる若手

  最近の若い選手はマラソンを走らなくなったと言われている。1年に1、2度しか走れず、ケガのリスクも高いマラソンを避け、注目される駅伝だけを走る選手が増えたからである。

 人の生き方は様々だ。ある意味、駅伝人気の中で「打算的」にマラソンを走らないのも悪いとは言えない。実業団の駅伝で活躍すれば、それなりのボーナスがもらえると言われているからだ。

 でも、日本だけでしか行われない駅伝に特化した選手たちがスターになる日本の長距離界でいいのだろうか。人気と強化。そのジレンマが、駅伝に横たわっている。