「ミュンヘンの奇跡」を彷彿とさせる完成度の高いチーム
本当にこれが日本の男子バレー代表チームなのか。そう思ったバレーファンも多いだろう。
男子バレーは1972年のミュンヘン五輪で大逆転の金メダルに輝いて以来、長い低迷期に陥っていた。ロンドン、 リオと2度の予選敗退を経験した男子バレー代表チームが、東京五輪でここまでの活躍を見せると誰が想像しただろうか。
東京五輪の予選ラウンド、ベネズエラとカナダに2連勝という最高のスタートを見せた龍神NIPPON。これまでの葛藤を爆発させるような、若きエースたちの活躍とベテラン勢の安定感が嚙み合った試合だった。
その後、予選ラウンドでキャプテン・石川の所属チームがあるイタリアと強敵ポーランドに破れるものの、最後のイラン戦ではフルセットの激闘を勝ち抜き、1992年のバルセロナ五輪以来29年ぶりのベスト8入りを果たした。
準々決勝でブラジルに善戦もエースの石川祐希は涙
29年ぶりの決勝トーナメント。準々決勝の対戦相手は、世界ランキングNo.1のブラジルだ。誰もがさすがの龍神NIPPONもここまでかと頭を抱えたことだろう。
しかし、選手たちは全く諦めていなかった。日本ならではの粘りと積極的な速い攻撃を見せ、どのセットも王者ブラジルから20点以上をもぎ取る善戦を見せた。
それでも試合後、周囲をはばからず、悔し涙を流すキャプテン・石川の姿がとても印象的だった。
成長した石川祐希、それでも世界は遠かった
前回リオデジャネイロ五輪の予選で敗れて出場を逃した後、石川はブラジルまで足を運んで五輪の試合を観戦。絶対にあの舞台に立つと固く誓った。
キャプテンとして、エースとして、チームメンバーを引っ張る立場として臨んだ5年越しの夢舞台。これまではあまりコートの中で感情を出す方ではなかった石川が、1点をとるたびに吠え、感情を前面に出した。敗戦後もキャプテンの石川の周りにみんなが集まり、話をする姿が印象的だった。
プレーもチームワークも、全員が向上して全部を出し切った東京五輪。石川自身も試合後、「最高のチームだった。僕たちの持っているものは全てこのコートに出すことができたのかなと思います」と振り返っている。それでも世界の壁はまだ高かった。
イタリアに渡る西田有志や高橋藍ら若手の成長に期待
東京五輪の予選ラウンドから準々決勝までのデータを見ると、石川は通算112 得点を挙げ、総スコア部門で世界2位、アタックの得点部門でも3位にランクインしている。石川が世界に通用するエースに成長していることは、今大会で十分に証明されたと言えるだろう。
今後、期待すべきは石川に続く選手である。どの国でも大エース以外にも得点源があり、誰が打っても決まるというチーム構成ができている。今回の東京五輪を見る限り、石川に対する世界からのマークは厳しくなるため、他の圧倒的な得点源が必要だ。
そこで注目が集まるのは、今大会でも高いアタック決定率を見せたオポジットの西田有志だろう。西田は今シーズンからイタリアのビ ーボ・ヴァレンティアへの移籍を決めている。9月中にイタリアに渡る予定の21歳が、経験を積んでさらに大きくなってくれることに期待したい。
また、今大会初招集でスパイク・レシーブ・フェイクトスなどすべての分野で注目を集めた19歳・高橋藍の成長も期待される。若き日本のエースたちが今後、石川に続く選手になれるのか。日本の男子バレーに明るい未来が待っている。
【関連記事】
・屈辱から5年…男子バレー石川祐希が主将として挑む東京五輪への決意
・日本男子バレーのエース石川祐希がイタリアで得た技術とメンタル
・男子バレー日本代表の大学生コンビ・高橋藍と大塚達宣に託された五輪メダル