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東京五輪、国内リーグ…新型コロナウイルスがスポーツ界に与える打撃【新型コロナウイルス特集】

2020 3/2 06:00橘ナオヤ
【新型肺炎によるスポーツ界への打撃】
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Ⓒゲッティイメージズ

猛威を振るう新型肺炎はスポーツ界にも影響

2020年、世界中で混乱を引き起こしている新型肺炎。中国湖北省武漢市に端を発する、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大だ。中国国内で多くの感染者と死者を出し、日本や韓国などのアジア諸国、さらにはイタリアでも続々と感染者が報告されている。各国が警戒を強め、中国や感染者数の多い国への渡航制限を行う国も増えている。国境を超えた経済活動が当たり前となった現代社会が受けるダメージは大きい。

その影響は経済界だけでなく、スポーツ界にも及んでいる。テニス界では、ATPやWTAといったトップツアーへの影響は現時点では限定的だ。上海マスターズ(ATPマスターズ)や武漢オープン(WTAプレミア5)が行われるアジアシーズンは、全米オープン後の9月以降のため、2月26日時点では中止や延期の決定は下されていない。だが下部のカテゴリーでは影響は大きい。中国開催の男子のチャレンジャー4大会が中止。女子の下部大会でも、開催地変更や中止となった大会がある。

国別対抗戦デビスカップ(デ杯)では、より直接的な影響が出た。3月6~7日開催のデ杯のワールドグループⅠプレーオフ。ルーマニアのホームで行われる予定だったルーマニア対中国の試合を、中国代表は棄権したのだ。中国からの渡航者は、新型肺炎蔓延の影響で移動が制限されており、ルーマニアも中国からの入国を制限しているためだ。同日程ではデ杯予選、日本対エクアドルが兵庫で行われる予定。錦織圭が久々に実戦復帰すると期待されている。だが2月26日、日本テニス協会は国際テニス連盟と大会運営を巡り協議を続けた結果、無観客試合を決定した。

他競技にも影響は出ている。日本国内ではプロ野球がオープン戦を無観客での開催を決定。バドミントンや卓球といったアジアで盛んな競技は、大会の中止や開催地変更が続出している。

日々事態が進んでいるため全てを列挙できないが、2月26日現在のサッカーを例に挙げよう。中国スーパーリーグは開催を当面見合わせ。同リーグから移籍を検討した選手が、渡航制限のため移籍を阻まれたケースがある。韓国のKリーグも、2/29、3/1に予定していた開幕節の全試合を延期。Jリーグは2月26日から3月15日までの公式戦94試合の開催を延期した。イタリアでも特に感染者の多い北部での試合を延期するなど、各国が対応に追われている。

2016年リオ大会も感染症で開催中止の危機に

なぜこれら大会が中止や延期に追い込まれるのか。まずは現地での感染数拡大のリスクだ。スポーツの大会は不特定多数の観客が開催地に詰めかけるため、来場者の体温をチェックにかかる労力は膨大で、加えてその中に無症状や症状の軽い感染者がいる可能性も決して低くない。とりわけCOVID-19は感染力が強いとされ、こうした催しを行うことが感染者を増加させるリスクになるという考え方だ。

そして感染地拡大のリスクだ。国際的なスポーツ大会は国境を超えたヒトの移動がつきもの。出場する選手や運営スタッフ、主催者、そして観客まで、会場を出入りする人々は、世界各地から集まる。感染例が多い国に、多数の国・地域からのヒトの移動があると、新型肺炎を他国や他の大陸へと飛散させるリスクを一段と高めると言える。

感染症とスポーツ大会についての直近の大きな事例は、2016年のオリンピック・パラリンピックの会場となったリオデジャネイロで感染が拡大したジカ熱がある。ジカ熱は感染すると低い確率ではあるがギラン・バレー症候群を引き起こし、妊婦が感染した場合は小頭症の赤ちゃんが生まれる可能性があるとされる病気だ。妊婦や妊娠の可能性がある女性、またその家族が渡航を見送ったほか、多くの国のオリンピック委員会が懸念を表明し、実際に大会の欠場を表明する選手も続出した。

夏の東京、その他大会への影響も

日本はこの夏、東京オリンピック・パラリンピック大会を7月に控えており、その開催を危ぶむ声も出てきた。真夏になればCOVID-19の蔓延も下火になる、という見方もある。リオ大会の際は、国際オリンピック委員会(IOC)は、大会期間中ブラジルは冬のため一般的に健康上のリスクはない(ジカ熱は主に蚊が媒介動物となって感染するため)と強調し、開催へのGoサインを出した。

だがCOVID-19の場合は、すでに常夏のシンガポールでも感染例が相次いでいること、夏のインフルエンザ流行が日本でも時折報じられることを念頭に置くと、自然に沈静化するという見方は楽観的過ぎるかもしれない。

加えて、見るべきタイミングは開幕する7月だけではない。選手団や各国スタッフは大会数カ月前から開催地入りし準備を進める。その準備期間までに収束するのかが検討のポイントだ。IOCのディック・パウンド委員が、開催の判断は引き延ばせても5月下旬がタイムリミットとの見解を示した。

また、ジカ熱と単純に比較できないのは、その感染経路の違いだ。ジカ熱の主たる感染経路は蚊と体液であり、妊婦や妊娠を考える女性、そしてその家族が懸念を示した。一方でコロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染。大会会場など密集地での感染拡大がより懸念される。東京オリンピック・パラリンピックだけでなく、その他のスポーツ大会が、今後対応を迫られるのは必至だ。

スポーツ界では、大会中止の可能性に加えて、今後は選手の参加制限という可能性が出てくる。デ杯を棄権した男子テニスの中国代表チームや、中国からの移籍を阻まれたサッカー選手は発端に過ぎないかもしれない。

今後は日韓やイタリアなど、中国以外の感染例の多い国にいる選手が、他大陸での大会への参加を制限される恐れもある。逆に、参加選手やチームが来日しない可能性もある。すでに3月にU-23日本代表との強化試合が予定されていたU-23南アフリカ代表が、日本への渡航を取り止める意向を示した。

新型肺炎の蔓延は全世界で、スポーツどころではない、という深刻な事態に発展しつつある。


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