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どん底から帰ってきたマリー、今年のスタッツで復活を振り返る

2019 10/26 11:00橘ナオヤ
イギリス男子プロテニス選手のアンディ・マリーⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

復活を印象付ける2年8か月ぶり優勝

10月20日のヨーロピアン・オープン(ATP)の決勝戦は、アンディ・マリーとスタン・ワウリンカの組み合わせとなり、3-6,6-4,6-4でマリーが勝利。実に2017年の3月以来となるツアー優勝を果たした。勝利の瞬間には両手で顔を覆い、涙を見せたマリー。敗れたワウリンカも、ケガに苦しんでいた一人として、スピーチ時も彼の復帰を喜んでいる様子だった。

No.1を経験しトップ選手となったマリーだが、2017年シーズンから足と臀部の負傷に苦しみ、その年の途中からツアーを離れがちになった。18年は出場試合がわずか12試合にとどまった結果、7月には839位にまでランキングを落とし、1回戦で敗退した今シーズンの全豪オープン前の会見では涙ながらに引退を示唆していた。

全豪後に人工股関節を入れる手術を受け、リハビリののちダブルスでツアーに復帰。シングルスに復帰したのは、8月のシンシナティ・マスターズだった。あの会見から9か月、シングルス復帰からは3ヶ月でツアー優勝。2年8か月ぶりのこの優勝により、10月21日付けのランキングでは127位まで上がった。

手術前後でパフォーマンスにも違いが

今シーズン、シングルス17試合で10勝7敗の戦績をあげたマリー。手術前の2大会3試合、手術後の5大会9試合、今回優勝したヨーロピアン・オープンの5試合、そしてヨーロピアン・オープンまでの全8大会、4つのタイミングで1試合平均のスタッツを出した。

1試合の平均スタッツⒸSPAIA

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手術前後で極端な数字の変化がないのはさすが元No.1か。それでもいくつかの変化が見て取れる。

手術前を見ると、ファーストサーブの成功率、そしてエースの数が際立っている。股関節を痛めていたためロングラリーはできないことを自覚しており、サーブでポイントを狙う意図が強かったことがうかがえる。反対に、ブレーク成功が少ないのも特徴的。

マリーと言えば、フットワークとロングレンジを武器に広い守備範囲を持つカウンターパンチャー。それだけに、わずか3試合とは言えブレーク数が平均1.7というのは、彼が負傷を抱え思うようなプレーをできていなかったことを如実に表している。

手術後の5大会を見ると、だいたいの数字が手術前と比べて微減している中でブレーク数が増えている。筋力や体力が戻り切っていないこと、そして人工股関節を入れたことで、少しずつだが粘り強く動けるようになったということか。

優勝したヨーロピアン・オープンでは、ファーストサーブの成功率以外の数字が大きく上向いているため、ダブルフォルトも増えていることから見てもサーブの成功率にはまだ改善の余地がある。だが、サービス成功時の得点率はファーストサーブ、セカンドサーブとも大きく上昇しており、3球目(相手レシーブに対するプレー)以降でポイントをものにするプレーができるようになっている。ブレーク数も上がっていることから、サービス、リターン両面でプレーに自信を取り戻していることがうかがえる。

今季は終了、来季は全豪に復帰予定

6月にツアー復帰したマリーは「シングルスでツアーを戦えるようになるには、あと数か月要する」と言っていたが、9月以降のアジアシーズンで戦えることを示すと、わずか8か月で優勝を果たした。これは本人にとっても、そしてテニス界にとっても嬉しいサプライズだった。負けたワウリンカも、セレモニーでは「僕は今日負けてしまって悲しいけれど、戻ってきたマリーに会えて本当に嬉しい」とコメントしている。

優勝の次はトップレベルでのプレーを維持することに期待したくなる。11月にはイギリス代表としてデビスカップ決勝大会出場を予定。そして来シーズンは、あの涙の会見の舞台となった全豪オープンへのカムバックが決まっている。

ただ、まだランキングは100位台で、先にも述べたように、サービス成功率などを上げなければグランドスラムのような大会で勝ち進むことは難しい。

そこで良い例がある。今回マリーが破ったワウリンカもケガに苦しんだ一人で、今シーズン開幕時は59位だったものの、ここまで18大会に出場し10月21日の時点でATPランクを17位にまで上げた。そして、10月末には19大会目としてスイス・インドア・オープンに参戦している。

本音を言えば、ワウリンカのようにマリーもツアーで継続的に戦えるよう、力を取り戻して欲しい。しかしまずは、人工股関節を入れてツアーに復帰し優勝まで果たしたことは前例のないことなのだから、ツアーに帰ってきたこと自体を喜びたい。

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