新ガイドライン、時間超えたら違反行為
男子テニスの四大大会でフルセットの大熱戦となれば、4~5時間の我慢比べになるのは日常茶飯事だ。そんな息詰まる戦いで「トイレ休憩」が試合の流れを変えた例も過去に少なくないが、男子ツアーを統括するATPは11月23日、驚きのルール変更を公表した。
試合中のトイレ休憩に関する厳格な新ガイドラインで、1試合に1回(セット終了後)として、入室から3分以内に制限するというものだ。試合時間の短縮に向けて来年から適用するが、ウエアの着替え休憩も2分まででトイレ休憩と合わせて行うとし、いずれも時間制限を超えると違反行為とみなすとしている。
タイムバイオレーションに関しては、1回目は警告、2回目は1ポイントを取られ、3回目以降は1ゲームを失い、悪質な違反と判断されれば失格となることが想定される。
引き金は全米オープンでのチチパスの疑惑
2021年9月の四大大会、全米オープンで起きた一つの“トイレ事件”が引き金だった。世界ランキング4位のステファノス・チチパス(ギリシャ)のトイレ休憩が長すぎると、元世界ランク1位のアンディ・マリー(英国)から批判が出て論争に発展したのだ。
この1回戦でチチパスは第2セットの後に長いトイレ休憩、第3セットの後もメディカルタイムアウト、第4セットの後には8分近い休憩を取った。男子選手はコート上でのコーチングを受ける行為は一切禁止。だがチチパスは過去にも禁止されている試合中のコーチングの疑いがあると指摘されたケースが何度かあり、A・マリーは主審に猛抗議したのだ。
トイレから戻ってきたチチパスには遅延行為の警告が与えられたが、リズムを崩されたとして試合に敗れたA・マリーは怒りが収まらず、自身のツイッターで「チチパスがトイレに行っている時間は、ジェフ・ベゾス(アマゾン創設者)が宇宙飛行した時間の2倍だ。面白いね」と皮肉たっぷりに絵文字付きでクレームを付けた。
トイレ休憩は試合の重要な局面で戦略的に使用する選手がいるとして、テニス界では以前から問題が取りざたされてきたテーマだった。
テニス界でコーチング容認求める声も
東京五輪金メダリストのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)もチチパスのコーチング疑惑を指摘してきた一人。父親でコーチのアパストロス氏に休憩中に連絡して助言を受けているという可能性を示唆し、彼にとってトイレは「魔法の場所」などと苦言を呈してきたが、チチパスは一連の非難に「ルールは破っていない」と主張している。
一方でチチパスは「テニスは自分で判断して決める個人スポーツだが、第三者の目線は助けになる」とし、選手とコーチが試合中もコミュニケーションを取れるコーチングが容認されるべきとの考えも示している。
これまで、ルールブックに時間やタイミングなどは記載されていないため、チチパスは一貫して自分の正当性を主張してきた。女子のWTAツアーでは試験的にスタンドからのコーチングを認めることを決定している。
長丁場の試合が珍しくない男子テニス界。新たなガイドラインが来シーズンの試合でどんな影響をもたらすのか注目されそうだ。
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