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張本智和がワールドツアーファイナル最年少優勝 言葉と表情でわかる成長

2018 12/28 15:00マンティー・チダ
卓球,Tリーグ,張本智和,Ⓒマンティー・チダ
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ITTFワールドツアーグランドファイナル 最年少優勝

2018年12月、日本卓球界に新たな1ページが刻まれた。韓国・仁川で開催された「ITTFワールドツアーグランドファイナル」男子シングルスで、張本智和が史上最年少の15歳172日で優勝を決めた。日本人の優勝は2017年大会男子ダブルスの森薗政宗・大島祐哉組以来、男子シングルスでは2014年大会の水谷隼以来の快挙だった。

「ITTFワールドツアーグランドファイナル」は世界各地で行われる卓球の国際オープン「ITTFワールドツアー」の最終戦として開催し、各大会で加算された獲得ポイント(ワールドツアースタンディング)上位15名と開催協会枠(今回であれば韓国)1名の計16名によって行われた。

男子シングルスには、樊振東・許昕・林高遠といった中国勢、世界ランキング3位のティモ・ボル(ドイツ)、急成長を見せているヒューゴ・カルデラノ(ブラジル)、Tリーグ岡山リベッツにも参戦している李尚洙(韓国)が出場し、日本からも張本以外に、水谷隼、丹羽孝希が参戦していた。

張本は、初戦でフランツィスカ(ドイツ)を4-1、準々決勝でチャン・ウジンを4-1で下し、準決勝に進む。準決勝に進むことが予想されていた樊振東・許昕は、ともに準々決勝で姿を消すことになる。

張本の準決勝は、準々決勝で樊振東を4-2で下したカルデラノが相手だった。苦戦も予想されたが、なんと圧巻のストレート勝ちで決勝進出を決める。もう一つの島では、水谷隼が残っており張本との日本人対決も期待されたが、林高遠にストレートで敗れ、ここで姿を消した。

これで決勝は、張本と林高遠の対戦となった。世界ランキング4位とランキングで上位との戦いである(張本は2018年12月現在世界ランキング5位)。林高遠との対戦は2回目で、前回は2018ワールドツアー中国オープン準々決勝で対戦し、その時は林高遠が勝っている。

前回完敗した相手に対し、張本は幸先よく第1ゲームを11-4で獲った。第2ゲームはデュースの末、ゲームを落とすが、第3ゲーム以降は、全て11-9で張本が奪い、ゲームカウント4-1で張本が勝利。史上最年少での優勝を決めた。

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張本は、第3ゲームから3連取し、勝利を手繰り寄せたが、11-9というスコアが物語っているように、ぎりぎりの勝負で勝ち切って掴んだ優勝である。張本は注目されながらも成長を遂げてきた勝利だ。15歳というと中学3年生。子どもながらに目の前の相手に勝つための練習を積み重ねてきた結果である。筆者は2年前のジャパンオープンで、まだ中学に入学したばかりの張本を取材し、当時の取材音源も残っている。今回はその時から2018年12月までの成長ぶりを「言葉」と「表情」それぞれで振り返ってみたい。

通訳まで可能になったコミュニケーション能力の向上

2016年のジャパンオープンで、張本智和はU21男子シングルスでワールドツアーU-21史上最年少記録を打ち立てていた。当時は中学1年生、筆者は囲み取材で張本と顔を合わせていた。

「出だしから一気に離したのが勝利につながった」とコメントしていた張本。「ワールドツアーの表彰台に立ったのは初めてでわからない部分もあったが嬉しい。(優勝賞金の使い道については)ちゃんと貯めたい」と、まだ幼さが残る発言が続く。恥ずかしい部分があるのか、声もやや低めでおどおどしていた。しかし中学1年生で、これだけの大人たちに囲まれたら、正直怖いと思うのが普通だろう。

試合スケジュールの関係で、この日はU21の決勝しか試合が組まれていなかったので「この1試合だけは絶対に勝つ」という強い気持ちで臨んでいた。

それから今日に至るまで、張本は2018年全日本選手権を制し、世界選手権日本代表にも選出され、代表のエース格に成長した。そして2018年10月、木下マイスター東京の一員としてTリーグに参戦する。

木下マイスター東京でも、中心選手として活躍するだけでなく、通訳もこなすのだ。邱建新監督が中国人なので、試合後のヒーローインタビューで、張本が邱監督の通訳を担当する場面もあった。邱監督の中国語を、張本が的確に日本語でアナウンスをしていく。正しく聞き取り日本語に通訳してわかりやすく話すというのは、コミュニケーション能力が無いとできない。これだけでも、成長が伺える。

試合後の囲み取材でも、ある試合で0-2と厳しい状況でハーフタイムを迎えた時「僕と水谷さんで3点を取って勝つことに集中した」と話せば、ビクトリーマッチで吉村真晴と対戦した時には「(前回弟の和弘に負けていることを踏まえ)兄弟そろって負けるわけにはいかない」と闘志を燃やしていた。実績を積み重ねていく中で、言葉の選び方にも余裕が見える。

気持ちの余裕がもたらした「表情の変化」

人間は、常に「喜怒哀楽」と共に生きている。それはアスリートも同じ。勝った時は嬉しいし、負けた時は悔しい。ジャパンオープンU21男子シングルスで最年少優勝した頃の張本は、ショットが決まった時は今でもおなじみの「チョレイ」と声を出しながら、嬉しさを爆発させていた。調子が良い時はそれで良いが、悪くなるとイライラを爆発させることもあり、別の大会では敗れた時に涙を見せる場面もあった。

今秋に開幕したTリーグで、張本はチームから大事なポジションを任されている。個人成績もトップを走っており「張本は強すぎる」とT.T彩たまの坂本竜介監督がコメントするほど、手が付けられない強さを見せつけている。張本の強さがわかる部分の一つに「表情」をあげる。

張本はTリーグ参戦以降、3回しか負けていない(2018年12月25日現在)。勝利したものの、負けそうになった試合、劣勢になった展開は当然ある。ある試合では、出だしからミスもあって相手にリードを許すシーンがあった。しかし、張本の表情は変わるわけではなく、落ち着いて自分自身のプレーに徹していく。その時はデュースの末ゲームを落としたが、第2ゲーム以降3ゲームを連取し、逆転で勝利を飾っている。

その試合後には「凡ミスが多くそのゲームは落としたが、あれだけのビハインドをしながらデュースまで持ち込んだことが良かったので、落としたとしても次のゲームから大丈夫だと思った」と張本は、心境としてもこのように話していた。だからこそ、慌てることもなく表情にも焦りやイライラが出なかったのだと考えられる。

これは筆者の持論だが「勝つための表情」「負ける表情」があると考えている。いつも取材のときは、カメラも持参し写真撮影をしている。レンズ越しから見た彼らの表情を、写真に収めると喜怒哀楽が良くわかる。Tリーグで活躍を続けている張本の表情は、常に勝つ表情をしている。プレーぶりや「チョレイ」に目が移りやすいが、ぜひ張本の「表情」に注目をしてほしい。