卓球世界選手権に出場、明治大は逸材の宝庫
アメリカ・ヒューストンで行われている卓球の世界選手権。男子は張本智和や丹羽孝希が2回戦で消える中、初出場の戸上隼輔が3回戦まで進み、中国選手に敗れたものの持ち味のキレのあるドライブを随所で見せた。
今回代表となった宇田幸矢と戸上隼輔はあまり知られていないかもしれないが、卓球ファンから見れば「世代交代がきた」と感じるメンバーだ。宇田と戸上は女子の黄金世代トリオ、伊藤美誠・平野美宇・早田ひなの1つ下の20歳。2人とも8月生まれで明治大学の学生、ダブルスも一緒に組んでいるのでセットで認識すると覚えやすい。
「なんだ学生か」と思った人がいるかもしれないが、東京五輪のメンバーはレジェンド水谷隼をはじめ、丹羽孝希も倉嶋洋介監督も明治大OB。そして宇田がリザーブに入ったため、五輪メンバーは高校生の張本智和を除き、全員が明治大だったのだ。
宇田・戸上は先月、アジア選手権の男子ダブルスでは日本勢で45年ぶりとなる金メダルを獲得していて、現在ダブルス世界ランク3位。今大会にもこのペアで出場している。水谷が引退した今、チェックすべきはこの明大コンビだ。
投げ上げからの速攻に注目、宇田幸矢
去年1月、高校3年生で全日本選手権のチャンピオンになった宇田。水谷が前年に全日本から”卒業”したため、この年は張本の優勝で間違いないと見る人が多い中での番狂わせだった。
宇田はこの試合、決勝では張本を相手に1ゲーム目からアグレッシブに攻め、レシーブや3球目からどんどん仕掛けていった。フルゲームの8-9で長いツッツキを使って張本のミスを誘ったところで勝負は決まっていたのかもしれない。9-9でサーブを持った宇田は2本連続でサービスエースを決め、日本の頂点に立った。
宇田といえば、中継でも画面の外まで出てしまうほどに高いトスからのサーブ。そして、そこからの3球目攻撃だ。ハイトスサービスのメリットは、回転やスピードといった球威が増すこと。
同じ大きさの消しゴムでも、机の上から落とした時とビルの上から落とした時では衝撃の大きさが違うことを考えてもらうとわかりやすい。トスを高くするとボールの落下点がずれやすくなる、打球のタイミングが取りにくくなる、短く低いサーブが出しにくくなるなどサーブの難易度が上がるが、宇田はハイトスサーブを使いこなすことで、3球目攻撃に繋げている。
速攻型で知られている選手といえば丹羽だろう。宇田も丹羽も台の近くに構えて速い打点で攻撃していく点は共通しているが、丹羽は相手のパワーを利用するカウンタータイプで、宇田は自分から振り抜いていくタイプのため、同じ前陣速攻でも違った印象になると思う。
パワフルな両ハンドで攻める戸上隼輔
インターハイでシングルス2連覇、全日本ジュニアでは宇田を下して頂点に立ち、全日本学生でも優勝と、若手の大会で輝き続けている戸上。Tリーグでも昨季の前期MVPに選ばれている。
自身のホームページでは「未完成な部分も多いがナショナルチーム監督がもっとも期待する次世代最有力選手」と強気にアピールしていて、宇田とともにポスト水谷の1人と目されている。
戸上の持ち味はフォアでもバックでもぶち抜ける強力なドライブ。男子大学生らしいガンガン振っていくパワフルなドライブは迫力があって観ていて気持ちがいい。しかも運動量が多く、フォア寄りのボールをバックハンドでチキータしたり、バックのボールをフォアで回り込んだりと、エネルギッシュなプレーで、「卓球は地味」と思っている人にもぜひ見てもらいたい。
一方で、戸上の試合を観ているとレシーブでチキータすると見せかけて短くストップをすることなどがある。相手からすると、強烈なチキータがくると思っていたところにストップがくることで対応が遅れて単調な返しになりがちだし、その後に強打された時も対応が遅れてしまう。
基本はガンガン打っていくことが多い戸上だが、敢えてストップを混ぜることで緩急をつけ、持ち味である強烈なドライブの得点力を増しているといえる。
正統派じゃなかった?先輩の2人
宇田と戸上はいずれも若い男子に最も多いパワードライブ型。長年日本代表を引っ張ってきた明治大の先輩、水谷と丹羽もドライブ型だが、実はこの2人はドライブ型の中でもちょっと個性的なタイプだった。
丹羽はパワーというより打点や打法で相手を翻弄するタイプだし、水谷もロビングやブロックを織り交ぜて使う、オールラウンダー寄りのドライブ型。「シェーク裏裏ドライブ型」と一口に言っても様々なタイプがいるのだ。
パリ五輪に向けて新たな風を吹かせることができるか、明治大コンビに注目だ。
《ライタープロフィール》
福田由香
NHK岡山キャスター、テレビ愛知アナウンサーを経て「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)で現場リポーターとして活動した経歴を持つ異色のライター。卓球初段。全日本社会人選手権、全国インカレ出場。学生時代は全国国公立大学卓球大会で数々の賞状を手にした。
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