「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

ポスト増田明美?福原愛さんの「たとえ話解説」で卓球の面白さ再発見

2021 1/26 20:00田村崇仁
福原愛Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

台湾から帰国して全日本選手権決勝で名解説

卓球女子の元日本代表で幼少期から「天才少女」「泣き虫愛ちゃん」の愛称で親しまれ、2018年に現役を引退した五輪2大会連続メダリストの福原愛さんが、豊かな表現力と的を射たユニークな語り口で「テレビ解説者」としても新たな才能をアピールしている。

1月17日、卓球日本一を決める全日本選手権(大阪市・丸善インテックアリーナ大阪)の女子シングルス決勝は、石川佳純(全農)と伊藤美誠(スターツ)との東京五輪代表対決。白熱した名勝負は先輩の石川が4-3で制し、5大会ぶり5度目となる涙の優勝を果たしたが、台湾から一時帰国してNHKの生中継に出演した福原さんの名解説ぶりも卓球ファンを中心に大きな話題となった。

「ポップコーン」のように若手成長

福原さんの解説は、プロにしか分からないサーブの微妙な回転の違いや細かい技術面、専門的な試合運びから戦術の大切なポイントまでかみ砕いてくれ、卓球素人にも分かりやすいのが特徴だ。簡潔明瞭で技術、心理、駆け引きなど卓球の新たな一面を引き出し、現役時代に切磋琢磨してきた選手の心情にも寄り添った温かい内容はとても聞き応えがある。

これも幼少期から卓球と共に成長してきた経験値がなせる技なのだろう。決勝の手に汗握る大熱戦が終わると「我慢、我慢の一戦。私も感動しました。素晴らしい試合でした。石川選手は今、追われる立場になり、日本の女子卓球界はポップコーンのようにどんどんどんどん若手が出てくる中での優勝は、今までの優勝とはまた違う喜びがあるんじゃないかな」と心情を察してコメント。「今まで頑張ってきた分、我慢してきた分、自分に打ち勝ったような、そんな気持ちになれる優勝だと思います」と落ち着いた語り口で祝福した。

そして敗れて泣き崩れる伊藤にも「ここまで負けた後にこうしてコートに残ったり、ここまで感情をあらわにするっていうのは珍しいので。本人の中ではやはりいろいろな反省点が今もう見えていると思います。また一回り成長して強くなれるとエールを送りたい」と愛にあふれた言葉を贈った。

独特のたとえ話、料理に見立てる世界観も

柔らかい、ゆっくりした口調ながら、瞬時にたとえ話を独自の視点で盛り込む解説の芸当はお茶の間を和ませる雰囲気で目を見張るものがあった。

サーブの場面では、トスしたボールを「時計」に見立てて「横上(回転)が2時、横(回転)が3時、横下(回転)が4時」と回転や質の違いを解説。ラリーでの駆け引きや変化では得意の料理を例に挙げて「ずっと甘いものを食べていて、いきなり辛いもの食べる感じですよね」と例える場面もあった。

石川の誘い玉に乗り、伊藤がミスしてしまった場面でも「例えて言うなら、とてもお腹が空いてる所にご馳走が出てきたので手を洗わずに食べてお腹を壊しちゃったって感じですね」とユーモアあふれる独特の世界観を披露。点が決まってから次のサービスまでに、即座に勝負のポイントを解説する技術があるため、SNS上には「卓球ってこんなに面白いのか!」「話し方やトーンが聞いていて心地よかった」と好意的な声が広がった。

勝負の駆け引きも的確に解説

3-3で迎えた最終第7ゲーム。1点が勝負を分ける息をのむような攻防の展開でも福原さんの解説は落ち着いていた。

序盤で石川がリードすると「伊藤さんのスマッシュに石川選手は目が慣れてきました。(伊藤にとっては)スピードを変えたり、工夫が必要。台から距離を取り、石川選手の守備力が際立っています」と的確に指摘。「悪循環のループにはまっている」と分析した伊藤が逆襲に転じるポイントも巧みに解説し「下回転から入ってしまうと、石川選手のループドライブが際立ってしまうので、できるだけ上回転にする」「(石川は)表ソフトラバーの攻略法は熟知している」といったトップ選手の駆け引きも織り交ぜ、勝負の裏側を解説してみせた。

伊藤は3歳になる直前に卓球を始めた時、手にしたラケットが「福原愛モデル」だった。幼少期から「愛ちゃん」に憧れた伊藤を、引退した福原さんが解説している構図もなかなか感慨深いものがあった。

江宏傑選手と結婚、増田明美さんや野村克也氏の後継者に?

福原さんは2004年アテネ大会から五輪は4大会連続で出場。2012年ロンドン大会で日本卓球初の五輪メダルとなる団体銀を獲得し、2016年リオデジャネイロ大会では団体銅メダルに貢献している。2012、2013年全日本選手権シングルス優勝。卓球台湾代表の江宏傑選手と結婚し、2017年に長女を出産。2018年10月に引退し、2019年には長男が生まれた。

子育てと仕事の両立で忙しい中でも、穏やかな「愛ちゃん」トークで分かりやすい解説は磨きが掛かるばかり。スポーツの心理戦をリアルに語れるという意味で、陸上の増田明美さんやプロ野球の野村克也さんといった名解説者の後を継げる人かもしれない。

昔から愛される人柄は変わらない。今後も解説の仕事だけでなく、幅広い分野で引っ張りだこになりそうだ。


【関連記事】
卓球のオリンピック歴代日本人メダリストを紹介
「大魔王」伊藤美誠が卓球王国・中国を倒せる理由
内村航平、瀬戸大也、福岡堅樹ら東京五輪のコロナ延期で運命が変わったアスリート