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京大アメフト部復活へ、屈辱の入れ替え戦から決意のリスタート

2022 4/27 11:00松平聖一郎
京大アメリカンフットボール部のQB泉岳斗,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

2022年初戦で同志社大に3点差勝利

何百、何千の言葉を並べるより、その1プレーは説得力があった。京大アメフト部にとって、2022年初戦となった同志社大との交流戦「今出川ボウル」(4月23日)。試合の中盤に、エースQB泉岳斗(3年)がボールをキャリーし、密集を抜け出す場面が訪れた。

行く手に立ちはだかる相手ディフェンス。調整段階の春、そして代わりのきかないポジション特性を考えれば、タックルをかわすか、倒れ込んでもいいはずなのに、背番号17は自分から突進して、守備陣をはじき飛ばした。チーム全員に送った強烈なメッセージ。今季の京大が進むべき道を示した一瞬だった。

「あそこまで進んで、自分が弱いプレーをしてはいけない。一番力強いプレーをしなくては、と思って、ああいう形になった」

昨秋敗れた借りを3点差勝利で返した試合後、泉は「確信犯」で鼓舞したことを認めた。小5から中2の4月まで米ペンシルベニア州で暮らした帰国子女。現地でアメフトを始め、運動能力とセンスを買われ、司令塔まで任された。競技未経験者が大部分を占める京大では、経験値も、知識も随一。1年生からQBを託され、名門再建を担う中心的存在になるはずだったのに、思うようにならない現状がもどかしい。

「(入部してから)ここまで、あっという間だった。1年生の時は何もできず、2年生はいろんなことがありすぎた」

コロナ禍のため、完全なリーグ戦開催を見送られた過去2シーズン。昨年は2014年以来、創部2度目となる入れ替え戦に回るなど、最後まで苦しんだ。いや、低迷期はここ数年の話ではない。1980年代は関学大と「2強」、立命大が台頭した90年代は「3強」の一翼を担った京大も、関西1部リーグを制したのは1996年が最後。学生日本一のタイトルも、その年から遠ざかっている。

東大に次ぐ偏差値を誇る全国屈指の難関国立大。IQ軍団がスポーツでも日本の頂点を極めた現象は「奇跡」とまで称された。「奇跡」のフレーズを受け入れ、昔を懐かしんで終わってしまうのか、それとも再び立ち上がり、黄金時代が一過性の「奇跡」でなかったことを証明するのか。どちらの道を選ぶにしても、今季が分水嶺となるのは間違いない。

81歳の名将・水野弥一氏も指導

同大と戦った宝ヶ池球技場のスタンドには、水野弥一アドバイザーの姿があった。京大のカリスマ監督として、数々の不可能を可能にしてきた名将。81歳になった現在も京都両洋高のヘッドコーチを務めながら、週に1度、母校のグラウンドへ足を運び、指導を続けている。

昨年のシーズン中、スタンド観戦する氏に、「今の京大に足りないものは?」と尋ねると、間を置かず、この答えが返ってきた。

「勝つという信念があるから、昔は徹底的にやっていた。強くなるということは限界を超えること。何かを得たいなら、リスクを冒してやらなあきませんな」

ともすれば、「前時代的」「根性論」の一言で片付けられる言葉かもしれない。ただ、水野氏の信念が競技経験が乏しく、運動能力でも劣る京大生をフットボールシーンで輝かせてきたのは事実。現に今も、どれだけ実力差があっても、関学大や立命大の選手は京大戦に警戒心を示す。

「何をやってくるか分からない」「あのタックルは痛い」…。強豪校にとって常に不気味な存在であり続ける一方で、それが結果に直結しないジレンマ。潜在能力を信じるからこそ、泉は語気を強めた。

「春の試合でどんどん勝っていって、うちは関学大や立命大と十分に戦えるチームだということを後輩に分かってほしい」

やれば、できる――。エースが冒頭のシーンであえて体を張ったのは、自信を植えつけるための蛮勇だった。「京大が強くなければ、関西のアメフトは面白くない」とは、いろんな関係者から聞く言葉だ。入れ替え戦出場で味わった屈辱からのリスタート。今年のギャングスターズは確実に変わる。

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