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日大アメフト部を再建した橋詰功HCが「古豪」同志社大で手探りの挑戦

2022 3/13 11:00堀田和昭
同志社大アメリカンフットボール部の橋詰功ヘッドコーチ,ⒸSPAIA(撮影・堀田和昭)
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ⒸSPAIA(撮影・堀田和昭)

OBを頼って、まずはトレーニングルーム探し

人の価値は、逆境で決まるといっても過言ではない。そこでひるむか、立ち向かうか。戦うと決めたなら、目を血走らせるより、すべてを受け入れ、いっそ楽しんでしまった方がいい。今季、就任した同志社大アメリカンフットボール部の橋詰功ヘッドコーチ(HC、58)は、新しい環境で一からのチーム作りに奔走している。

「指導法とか今までの自分のやり方を変えるつもりはないんですけど、学校によって外的条件や特色などは違うので、そこはアジャスト(適応)していくしかない。例えば前にいた学校(立命大、日大)には何千万円もかけた専用のトレーニングルームがあったのに、ここは、そんなものはない、と。じゃあ、トレーニングはどうするのかという所から、スタートするわけですね」

全国屈指の強豪校と、1部と2部を行き来する中堅校では、ハード面から大きく違う。コストがかけられないなら、工夫、そして熱意でカバーするしかない。同大OBが社長の会社に空きスペースがあると聞けば、「ウェートトレの場所で使わせてください」と折衝し、京都市内のジムには協力を仰ぐ。長い指導生活でも未体験の類いの東奔西走。それなのに、苦労を言葉ににじませない。

「うまくいかないことがストレスになる一方、楽しくもありますね」

悪質タックル問題後の日大を再び甲子園ボウルに導く

逆境でこそ発揮できる強さは、すでに証明されている。橋詰HCの名前が一躍知れ渡ったのが2018年9月から3年間率いた日大監督の時だった。

同年5月、関学大との定期戦で、日大の選手がプレーを終えた関学大QBの背後から悪質タックル。当時の指導者が指示したとして、日本中を巻き込む大騒動に発展した。首脳陣が総退陣し、大学は次期監督を公募。「どうせ当たるわけない」と思いながら手を挙げた橋詰氏に、再建のタクトは託された。

日大といえば、21度の大学日本一を誇る名門中の名門。長い歴史の中で育まれた伝統とイズムが部を支配し、立命大出身の「外様」を受け入れる空気などなかった。

就任した直後は、連日6時間の猛練習で鍛え上げた選手の自負と、米国コーチ留学で学んだ理論をベースにした橋詰HCの合理的考え方が真っ向から対立。粘り強く選手と対話して「雪解け」を進める一方、結果を出すことで、自身に向けられていた懐疑的な目を変えていった。

1年目に2部に相当する「BIG8」から1部「TOP8」に昇格。そして2年目の2020年シーズン、学生フットボール界の最高峰、甲子園ボウルにまで導いた。

第1回甲子園ボウルに出場した「古豪」復活目指す

日大との契約満了後、その手腕に着目したのが同大だった。1940年(昭15)創部は、関西では関大に続いて歴史が古い。第1回の甲子園ボウル(1947年)にも出場。草創期の関西1部リーグを牽引していたのに、近年は2部降格も珍しくなく、1部にいても上位校の壁を破れずにいる。

大学の規模、熱心なOBの存在は強豪校と肩を並べながら、閉塞感に包まれた現状。オファーを受けた決め手は、チームの置かれた立場と無縁ではない。

「関西の大学フットボールにおいて、同志社が1部と2部を行ったり来たりという状況は寂しいな、という思いがあって。フットボールチームを強くするためには、やっぱり全体で100人、200人規模の人数が必要で、そのためには大学のキャパシティがある程度、大きくないと難しい。そういう意味では、同志社はトップクラスなのに、何かしらがうまくいかなくて、強くなれていない。関関同立って言われてますけど、(アメフト界では)同志社だけが違う感じになっているのが、何でやろ、と。もしかしたら何か(自分が)できるんじゃないかというのが(決断するときに)大きかったのかもしれません」

強いチームを作るために、橋詰HCは3つの要素が必要と考える。施設、選手、そして指導者。創意工夫でハード面の不備をカバーし、対話と情熱でプレーヤーのレベルアップを図る。指導者に関しても、フルタイムコーチの人選が進んでおり、強化のプロセスを着実に踏んでいる。

「ここへ来た時、有名コーチに来てもらって、とか言ってもらいましたけど、ヘッドコーチ(監督)の経験は日大しかないし、それも環境の整ったところでうまくいっただけの話で、自分が実績のあるコーチだとは思っていません。手探りでやっていきます」

楽しみながらの挑戦が古都で始まる。

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