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19歳の新星FWアーリング・ハーランドは上手くて強くて速くて“丁寧”

2020 2/28 06:00桜井恒ニ
アーリング・ハーランド(左)Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ドルトムント移籍後も得点力健在 CL史上最速で10得点マーク

2020年1月にオーストリアのFCレッドブル・ザルツブルクから独ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに移籍したノルウェー人FWのアーリング・ハーランド。移籍した現在も順調に得点を重ね、欧州サッカー界を席巻している。

19歳のハーランドがステップアップ移籍を果たしたきっかけは、チャンピオンズリーグ(以下、CL)のリヴァプールFCとグループステージで対戦。その際に同僚だった南野拓実、ファン・ヒチャンとともに活躍して注目を集め、ドルトムントと4年半の契約で移籍した。

オーストリアより格上とされるブンデスリーガに戦いの場を移したことで、フィットするまで苦労するか……と思われたが、ハーランドは役者が違った。デビュー戦である第18節のアウグスブルク戦では、後半の1-3と苦しい展開で途中出場してハットトリック。5-3の大逆転に貢献した。

その後も順調に得点を重ね、きわめつけは2月19日、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のパリ・サンジェルマン戦(1stレグ)にフル出場して2得点。2-1の勝利の立役者となり、キリアン・エンバペやネイマールら世界的スターを押しのけてマン・オブ・ザ・マッチに選出された。

ハーランドは、今季のCL本戦7試合で10得点をマーク。これはCL史上最速レコードにあたる。

また同記録は、サッカーニュースサイト「GOAL」(英語版)によれば、18歳360日でCL10得点を記録したエンバペに次ぐ、19歳212日という2番目の若さで達成されたものだという。しかも、英国系の有料スポーツチャンネル「BT Sport」のサッカー版ツイッターは、ハーランドは1シーズンのみでCL10得点を記録した初の10代だと解説している(エンバペの10得点はASモナコ・PSG在籍時を合算しての記録)。

ずば抜けたポジショニングセンスとゴール嗅覚、長身で俊足

ハーランドは、2月23日に行われたブンデスリーガ第23節のブレーメン戦でも、1得点をマークした。

相手チームも絶対に警戒しているはずなのに、これで8試合連続得点。CLを含めて12ゴールを決めている。ザルツブルグ在籍時も加えると、今シーズンだけで驚きの40得点だ。

ハーランドの得点力を支える要素は、ずば抜けたポジショニングセンスとゴール嗅覚にある。敵DFのマークを外して(敵DFの視界から消えて)パスをもらう動き、スペースへのランニング、「ここにパスが来るだろう」「ボールがこぼれて来るだろう」と察知する能力が優れている。これぞエースストライカーという動きだ。

また194cmという長身を誇り、屈強なDFたちに当たり負けしない。さらに足も速い。スペイン紙「AS」では、イタリア版「スカイ・スポーツ」が計測したハーランドのPSG戦のスプリント力に着目。60メートルを、世界記録に迫る6.64秒で駆け抜けたとしている。

ゴール前でハーランドが足を削られるシーンがそれほど多くないのは、この爆発的なスプリント力でスペースに走り込むことで、相手のプレッシャーを回避していることが理由の一つに挙げられるだろう。

得点量産の秘訣は“丁寧すぎる”インサイドキック

ハーランドのさらに特筆すべき点は“丁寧すぎるプレイ”だ。例えば、ハーランドはインサイドキックを使った、パスを蹴るようなシュートが目立つ。

彼のように恵まれた体格を持つ選手は、えてして豪快なシュートを狙いがちだ。大振りしたシュートが、コースを大きく外れてポスト上空に飛んでいくシーンが珍しくない。

だがハーランドは、大振りする必要がないときは決して大振りしない。まるでパスを蹴るように、インサイドキックで確実にゴールへ流し込む。トラップやドリブルの技術にも優れ、シュートモーションの際に好位置にボールを置けることも(良いポジショニングを取れることも)、的確にコースを狙える要因だろう。

象徴的なシーンの一つが、ブンデスリーガ第19節のケルン戦。後半に途中出場し、右サイドの角度がないところから、左足のインサイドキックで冷静にコースを狙ってゴールを決めた。

もちろんハーランドは、前述のPSG戦の2得点目で見せたように、豪快なミドルシュートを打てる。打てるけれども、必要がなければインサイドキックを使う。その判断が、19歳という年齢にしては、冷静沈着すぎて怖い。

時おり、ゴールパフォーマンスとしてピッチに座ってヨガのポーズを取るのは、彼にとって冷静さの象徴であり、「一喜一憂せず、常に冷静でありたい」という自戒の儀式なのかもしれない。

ポジショニングとゴール嗅覚が優れ、フィジカルが強くて足が速い。ボールを扱う技術も高く、それでいて確実にゴールを決める。フィニッシャーとして非常に完成度が高く、相手DF陣にとっては厄介以外の何物でもないはずだ。

FCバルセロナのリオネル・メッシ、バイエルン・ミュンヘンのロベルト・レヴァンドフスキ、ユヴェントスのクリスティアーノ・ロナウドに匹敵する得点力を持つ若者の台頭は、今後の欧州サッカー界を大いに盛り上げてくれるだろう。