一強時代に黄色信号?ウナイ・エメリの挑戦
リーグ・アンの絶対王者として君臨するのが、パリ・サンジェルマンFC(以下、PSG)だ。
PSGはずば抜けた資金力を武器に、2011-12シーズンから大型補強を毎年のように敢行している。チアゴ・シウバ選手、ズラタン・イブラヒモヴィッチ選手、エディンソン・カバーニ選手ら世界最高峰の選手をたて続けに手に入れ、優勝を狙った。
これが功を奏し、2012-16シーズンはリーグを4連覇。国内カップ戦も幾度となく制覇し、CLでも毎年のように出場、上位に食い込む活躍を見せている。
2016-17シーズンはローラン・ブラン監督(以下、敬称略)を解任し、ウナイ・エメリ監督(以下、敬称略)を招聘。ブランが解任されたのは、リーグと国内カップ戦を制しはしても、CLでベスト8から勝ち上がれないことに業を煮やしてのことだろう。
世界屈指の強豪となったPSGは、さらなる高みを目指すべくエメリを選んだ。
しかし、エメリに移行してからの2016-17シーズンは、リーグタイトルをライバルのASモナコに奪われる。CLでもベスト8はおろかベスト16となってしまい、就任1年目から彼の采配には黄色信号が灯っている。
エメリはPSGの監督就任以前には、セビージャFC(以下、セビージャ)の監督をしていた。セビージャはエメリの下で、EL連覇を成し遂げ、リーグでも中位につけるなど好調を維持した。おそらくPSGが彼を招聘したのも、エメリの国際舞台での活躍を評価してのことだろう。
エメリはサイドからの攻撃を好む監督だ。
PSGにおいては、ルーカス・モウラ選手やアンヘル・ディ・マリア選手らが崩しにかかる。そこに運動量のあるブレーズ・マチュイディ選手、ゲームを作ることのできるマルコ・ヴェラッティ選手らが走り込んでいく。プレスをかけることにも熱心で、相手の自由を確実に奪っていく。
リーガ・エスパニョーラでは中堅のセビージャが、他のビッグクラブに対抗できたのも、この徹底したハードワークがあったからだろう。
とはいえ、この戦術はPSGでは未だフィットしていない。解任説が取り沙汰されることもあったが、もう少し様子を見る必要があるだろう。
PSGには自由にテコ入れできるだけの資金力があり、今しばらくはエメリのやりたいサッカーを作り上げるためのサポートをしなくはならない。
奪った王座!レオナルド・ジャルディムとモナコ
2016-17シーズン、リーグ・アンの頂点に立ったのは、レオナルド・ジャルディム監督(以下、敬称略)率いるASモナコ(以下、モナコ)だった。
ジャルディムは若手の才能を見極めることに長ける監督だ。プロサッカー選手としてのキャリアはないが、両親の故郷であるマデイラ島で監督業をスタートさせた。まずは2001年にADカマーシャのアシスタントコーチとなり、2年後には27歳という若さで正式に監督となった。
その後2011年にポルトガルの名門SCブラガで13連勝リーグ3位。2013年にはスポルティングCPでジョアン・マリオ選手、ウィリアム・カルバーリョといった有望株を発掘し、CL出場権を獲得できるリーグ2位に導いた。
2014年からはモナコを率い、2016-17シーズンにはPSGを押しのけてリーグを制覇した。
このシーズンも、やはりジャルディムが見出したキリアン・ムバッペ選手、ファビーニョ選手、ティエムエ・バカヨコ選手(以下、いずれも敬称略)といった若手が躍動した。
ファビーニョとバカヨコの中盤は非常に手堅く安易に突破を許さない。常に先読みして相手の攻撃を潰し、前線のムバッペらにボールを正確に繋いだ。
どのクラブを率いても若手を信じるジャルディムは、選手のモチベーションを維持するのも上手い。モナコの選手たちは、シーズンを通して好調を維持し優勝するにふさわしい試合を展開した。CLでベスト4入りできたのも賞賛すべきことで、ライバルのPSGはさぞや苦々しく思ったことだろう。
2017-18シーズンは数人の主力を引き抜かれ臨むことになるが、ジャルディムはおそらく今後も逸材を発掘し続けモナコを上位に導くだろう。シーズン開幕前にはベルギーの至宝とされるユーリ・ティーレマンス選手の獲得に成功している。
彼は常に先を見据えて行動し、クラブの地力を磨いている。
あのバロテッリも手懐ける!リュシアン・ファーヴルはCLを狙える
OGCニース(以下、ニース)を率いるのが、リュシアン・ファーヴル監督(以下、敬称略)だ。彼はスイス人監督で、現役時代には同国の複数クラブや代表でのプレー経験がある。監督としては、中堅クラブをCL出場権獲得にまで引き上げることのできる名将だ。
これまでにはヘルタ・ベルリン、ボルシア・メンヒェングラートバッハといったクラブをCLに出場させている。このブンデスリーガの2クラブは、常に中堅としての位置付けが妥当でありCLに出場するのは快挙とも言うべきクラブだ。それでも出場を果たせたのは、ファーヴルの類稀な采配力あってのことだろう。
2016-17シーズンから率いるニースでは、あのマリオ・バロテッリ選手(以下、敬称略)を手懐けることに成功。中央にはヴァンサン・コジエッロ選手、ジャン・セリ選手といった運動量と展開力に優れる選手を配置して戦った。前線のバロテッリが従来通り伸び伸びと動けたのも、彼らの働きに因るものがある。そして見事リーグを3位でフィニッシュし、CL出場権を獲得した。
ニースの引き続きの躍進は、ファーヴルの采配にかかっている。
取り戻したい黄金時代、ブルーノ・ジェネシオとリヨン
2016-17シーズンのオリンピック・リヨン(以下、リヨン)は、ブルーノ・ジェネシオ監督(以下、敬称略)の下で、リーグを4位で終わった。ジェネシオはこのクラブのOBで、前述のニースでの監督経験もある。リーグ・アンをよく知る監督だ。
2015年12月にリヨンの監督となると、2015-16シーズンはリーグ2位、国内のカップ戦ではベスト16、リーグカップではベスト8入りするなど少しずつ調子を上げている。2016-17シーズンはニースのサプライズもあり順位を落としたが、ここで解任するのは時期尚早だろう。
オランダの逸材メンフィス・デパイ選手の獲得、ELでのベスト4入りを成功させ、これからにはまだ期待がもてる。
リヨンは2000年代にリーグを7連覇しており、ジェネシオと現在のリヨンが狙っているのもこの黄金時代の復活だ。
光る先見の明!リュディ・ガルシアの持つ様々な顔
オリンピック・マルセイユ(以下、マルセイユ)の監督であるリュディ・ガルシア監督(以下、敬称略)は様々な顔を持つ変わった監督だ。
解説者として働いていたこともあり、戦術の分析や選手の見極めの力に優れており、スカウトの仕事まで行っていた。
ガルシアの多彩な力は、監督としても随所で活きている。LOSCリール・メトロポールを指揮していた頃には、エデン・アザール選手を発掘し、彼を世界最高峰のドリブラーへと育て上げた。
マルセイユでは多くのフランス人を育てる一方で、パトリス・エブラといったベテランの獲得にも成功している。
ガルシアはこうしたベテラン選手との対話を大事にしている。かつて指揮していたASローマ時代には、デ・ロッシ選手やフランチェスコ・トッティ氏を気にかけ、彼らを起点にチームの調和を図った。
マルセイユがガルシアの下で織りなすサッカーは、非常に堅実で粘り強さがある。近年はリーグ中位に甘んじているマルセイユも、彼とともに地道に順位を上げてくることが予想される。