U-20W杯で1試合9得点の離れ業
カタールW杯まで1年余り。各地で32の出場枠を巡って激しい戦いが行われている。最激戦区であるヨーロッパでも毎回ドラマが起きており、ファンが期待するのは強豪と呼ばれる国々の活躍だろうが、メジャートーナメントにおいて伏兵と呼ばれる存在の躍進が大会を大いに盛り上げることも事実だ。
本大会でそうした役回りになりうるのが、実に24年ぶりの本大会出場を狙うノルウェーだ。
アーリン・ホーラン。今同代表チームの中心を担うのがこの男だ。長らくスター不在と言われていた同国希望の光であり、メッシ、C・ロナウド以降のサッカー界の新たな顔としても期待されている。
2019年に出場したU-20W杯で、1試合9得点という離れ業を演じ、その名は一躍世間に広まった。当時、所属していたザルツブルクでは、国内リーグはもちろん、CLでもゴールを量産し、一気に世界屈指のストライカーとしての階段を駆け上がった。
当時19歳の新星は活躍の場を4大リーグ、ブンデスリーガに移しても衰えるどころかさらに勢いを加速させていく。現在もエースとして君臨するドルトムントでも多くのゴールを奪っているのは周知の通り。これだけの実績を誇りながら彼はまだ21歳。末恐ろしい怪物だ。
15歳でフル代表デビューしたウーデゴール
ノルウェーを引っ張る「神童」はもうひとり。現在アーセナルの司令塔として活躍するウーデゴールだ。こちらも22歳ながら、すでにそのタレント性は十二分に保証されている。
15歳でフル代表デビュー、2015年にはわずか16歳にして世界一のクラブであるレアル・マドリーに引き抜かれたという事実がその特大の才能を表す名刺のようなものだ。
しかし、マドリーのポジション争いの中でなかなか出場機会を掴むことができず、毎シーズンのようにレンタル移籍を繰り返すことになる。多くのクラブ、国でプレーを磨いたことにより、選手として一皮むけた感はある。昨季からレンタルでプレーするアーセナルには今シーズンから完全移籍に切り替わり、ついに安住の地を見つけたようだ。
CL改革で国内クラブ底上げ
彼ら2人の若武者に引っ張られ、チームは現在W杯予選グループG2位と予選プレーオフ出場圏内につけており、久しぶりの本大会出場に向け、国民の期待も膨らむ。低迷を続けてきた北欧の小国はいかにして進化を遂げたのか?
まず大きいのが、前UEFA会長ミッシェル・プラティニによる、CLの改革だろう。欧州各クラブに莫大な利権をもたらすこの大会であったが、かつてはビッグクラブのみが出場枠を独占していた、きな臭いものだった。
しかし、メジャートーナメントに縁のない小国にも門戸が開かれるよう、現行のプレーオフ制度など、一部改革を実施。この恩恵を受け、国内の強豪、モルデ、ローゼンボリ、バイキングらのクラブが、少しずつではあるがこの至高の舞台に顔を出すようになった。
これは若手選手の強化という点でこれ以上ない出来事だった。前述したホーランも、国内のモルデを経て、ビッグクラブへ羽ばたいていった。こうした地道な強化によって、少しずつだが着実に戦力値は底上げされていった。その成果が今現れている。
98年フランス大会でベスト16
もちろん、まだ予選突破が決まったわけではない。しかし、今のチームは同国史上最高のベスト16という成績を残した98年フランスW杯のチームに似ているところもあり、期待を抱かせる。
当時のチームはトーレ・アンドレ・フローというエースに率いられており、彼の兄やいとこら3人の「フロー」もチームに所属していて、個性的なチームだった。
現在も絶対的存在のホーランを筆頭に、ウーデゴールはもちろん、多くの選手が主要リーグで活躍するなど、個性的なチームで、当時の再現を起こす可能性は十分だ。
まずは予選突破を決めることが大前提だが、小国ゆえ、W杯でその勇姿を見られない選手というのは珍しくない。しかし、今回ノルウェーはこれまでの敗北の歴史に終止符を打つチャンスが巡ってきたと言えるだろう。
来年、ホーランに率いられる彼らが久しぶりの本大会で国歌を噛みしめるシーンが楽しみだ。
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