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EURO決勝から見る森保一監督の力量、真価問われる東京五輪

2021 7/15 06:00桜井恒ニ
欧州選手権で優勝したイタリア,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

前半は作戦成功のイングランド、マンチーニ采配で盛り返したイタリア

EURO2020の決勝が英ロンドンのウェンブリーで7月12日(現地時間)に行われ、PK戦までもつれ込んだ末、イタリアがイングランドに勝利した。イタリアは1968年大会以来、53年ぶり2回目の優勝となった。

イタリアは3年前、ロシアW杯の出場が叶わず、低迷期に入ったかと思われた。しかし勢いを取り戻し、EURO決勝のイングランド戦に至るまで33戦無敗を記録した。

母国の地で初優勝を狙うイングランドは、そんなイタリアを警戒してか、普段の4バックではなく、ベスト16のドイツ戦の3バックを採用(3-4-2-1)。CLを制したチェルシーのように、守備では中盤のWBの2人が下がって5バックを形成し、厚い守備網を敷く。攻撃の際には中盤を厚くし、シャドーの2人がイタリアのキーマンであるボランチのジョルジーニョ(チェルシー)の間のスペースを活用して攻め上がる。

イタリアは序盤、明らかにこのイングランドの作戦に慌て、前半2分、カウンター気味に高い位置を取ったイングランドの左右のWB同士が、パス交換する形で鮮やかに先制点を決めた。イングランドは、イタリアのお株を奪うウノゼロ(1-0)の勝利すら見えかけた。

だがイタリアのマンチーニ監督も黙っていなかった。0-1で迎えた後半54分、機能していなかったFWインモービレ(ラツィオ)をベラルディと交代。さらにMFクリスタンテ(ASローマ)を投入。FWキエーザ(ユべントス)のポジションチェンジも行い、中盤と前線に変化をつけて勢いを取り戻す。獲得したセットプレイから、ボヌッチ(ユべントス)が最後押し込んで1-1の同点に持ち込む。

その後も、試合は指揮官同士のつばぜり合いのような駆け引きが続いて膠着状態に。延長戦を戦っても決着がつかず、PK戦に突入した。

命運を分けた選手交代 若手3選手がPK失敗

イングランドの誤算は選手交代だった。

イングランドのサウスゲート監督は、延長戦が終わる直前、23歳のラッシュフォード(マンチェスターU)と21歳のサンチョ(マンチェスターU)を投入する。約120分戦って足がクタクタに疲れた選手よりも、体力のある交代選手のほうが蹴り足が強く、PK成功率は高くなると考えたセオリー通りの対応だ。

しかし、イタリアのGKドンナルンマ(ミラン退団予定)の壁にはばまれ、ラッシュフォードとサンチョ、後半70分に投入された19歳サカ(アーセナル)の3人がPKを失敗。初優勝を願う大観衆を前にして、重圧もあったのかもしれない。イングランドに勝利してEURO優勝を飾ったイタリアは、これで34戦無敗となった。

とはいえ、PK戦も3-2の大接戦で最後まで予断を許さなかった。決勝のみならず、大会を通して延長戦が多く、ヨーロッパ勢の総合的なレベルの高さを再認識させる内容だった。

五輪で再び試される森保采配、今度こそサポーターを納得させる?

翻って日本だ。目標に掲げるW杯ベスト8以上を果たすには、今回EUROで活躍したような強豪国を倒さないといけない。アジアW杯予選では、日本は海外クラブ所属の選手を多数擁し、他国との戦力差を見せつけて1試合10点以上取る圧勝劇が目立つ。森保一監督の貢献度が高いとはまだ言い切れない。

日本の試合環境は、W杯予選やEURO、コパ・アメリカなどで拮抗した相手と対峙できる欧州・南米の国々に比べて、優れた環境とは言い難い。だからこそオリンピック本戦(U24)やW杯本戦は強豪国と真剣勝負ができる格好の環境でもある。

実力が拮抗すればするほど、EURO決勝のように監督の判断一つが重要になってくる。森保監督は選手のやる気を上げるモチベータータイプと言われているが、上位進出するには緻密な戦術も重要だ。強豪国も日本を研究して策を講じてくるだろう。

オリンピックを控えた7月12日夜のホンジュラス戦は、スコアだけ見れば3-1と素晴らしいが、中盤の連携や展開に不安も見られた。

アジアW杯決勝や欧州遠征で、サポーターから疑問の声が生じた森保采配。今回は世界を相手に通用するのか。17日のスペイン戦(国際親善試合)以後、互角あるいは格上の国との戦いが続くと見込まれるオリンピックは、森保監督の実力をあらためてジャッジする場となるだろう。

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