バリャドリード戦で守備意識の低さを露呈
「タケ!タケ!」
11月3日未明(日本時間)のビジャレアル対バリャドリードの一戦。2-0でビジャレアルがリードしていた後半73分、MF久保建英に対し、スタッフの大声がピッチに響いた。久保のそばにいた相手10番のMFオスカル・プラーノが、ほぼフリーでゴール前へ駆け上がったのだ。
久保は現在、レアル・マドリードからレンタル移籍する形でビジャレアルに所属し、MFサムエル・チュクウェゼらと熾烈なポジション争いを繰り広げている。バリャドリード戦は、エースのFWジェラール・モレノが怪我から復帰。チュクウェゼが右サイドハーフで先発し、久保は後半途中64分からの出場だった。
前述の「タケ! タケ!」は、自陣へ下がってオスカルのマークにつけ、という指示だったと見られる。久保はゴール前まで下がったが、オスカルに追いつけなかった。クロスの精度が高ければ、1点奪われたかもしれない。もし本当に得点されていたら、現地マスコミから、後半80分の致命的なパスミスとともに槍玉に上がっていただろう。
“負けないサッカー”を信奉するビジャレアルのウナイ・エメリ監督は、守備意識が強い。久保はチームにフィットしきれていないと判断し、開幕序盤は久保を6試合連続で途中出場させた。これが不可解な判断だと見られ、スペインや日本のファンから「なぜ久保を出さない」と批判が殺到した。
それでもビジャレアルは、11月5日時点でラ・リーガ3位と好位置をキープ。バリャドリード戦で久保が露呈した守備意識の低さを含め、エメリ監督が全て悪いとは言い切れない。
CLでバイエルンがバルサのサッカーを破壊 守備重視がトレンドに
久保は、前シーズンに所属していたマジョルカでも、守備的な“負けないサッカー”を経験した。久保自身も守備に奔走したが、これは選手たちのレベルがあまり高くないというチーム事情も相まって致し方なかった。
一方、ビジャレアルではマジョルカより個々の選手のレベルが高い。久保にとっては、マジョルカ時代より攻撃に専念できるという算段だったのかもしれない。
だが、エメリ監督は久保に守備の徹底を求めている。2点差で勝っている状況下、後半残り30分弱で出る選手には、くれぐれも逆転を許すきっかけにならないようにと考えるだろう。
最近の試合では、エメリ監督の要求に従って久保の守備は強度が上がってきている。だが、バリャドリード戦では守備のポジショニングが悪く、前述の危ない場面を作ってしまった。エメリ監督の信頼を獲得した、とはまだ言えない。
守備の重要性は欧州全体で高まりつつある。2019-2020年シーズンのCLでバイエルン・ミュンヘンは、「全員攻撃・全員守備」と言われる守りと攻めがスムーズに切り替わるハイプレスでバルセロナのポゼッションサッカーを完膚なきまでに破壊し、8-2という衝撃のスコアを作り出した。
バイエルン対パリ・サンジェルマンの顔合わせになったCL決勝でも、両チームが高い位置から守備を展開して互いに譲らず、近年稀に見る好ゲームとなった。こうしたハイプレスを打ち破る戦い方が編み出されないかぎり、守備重視のトレンドは強まるだろう。
もちろん、守備と攻撃の両方で走り回るのは大変だ。しかしバイエルンのFWトーマス・ミュラーのように、守備も攻撃も徹底して遂行できる一流プレイヤーもいる。あまりトップ下を設けないレアルでも、久保と同じポジションのMFマルコ・アセンシオらは守備に走る。守備意識の向上は、久保の将来に間違いなくプラスに働くはずだ。
“楽しくない仕事”を遂行できればレアルでの活躍に近づく
とはいえ久保は、日本帰国前はバルサ下部組織に所属し、FWアンス・ファティ(現バルセロナ)らと得点を量産して将来を嘱望されてきた身。攻撃は守備より楽しい仕事であり、攻撃に絡むことこそが久保の存在意義だと誰もが認めるだろう。
バリャドリード戦でも、久保は前線に残ってボールを待つ時があった。攻撃で結果を出したいという欲が垣間見える。
けれども、ほぼ毎試合得点かアシストを決めるメッシに匹敵する攻撃力を見せない限り、久保が守備の仕事を免除されることはない。
守備の徹底を求めるエメリ監督と、得点に絡みたい久保。まるで口うるさい上司と、雑務を要求されてフラストレーションを抱える若手社員のやり取りに重なる。
エメリ監督を目の上のたんこぶだと邪険に扱うか、自分のためを思って怒ってくれる貴重な恩師と見るか。それは久保次第だろう。
楽しくない仕事をやりきった上で、結果も残す。ビジャレアルでサッカー人、社会人として一皮剥ければ、久保はレアルでの活躍にまた一歩近づくはずだ。
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