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横浜FMを支える左足、後半戦の注目は扇原貴宏

2019 8/1 17:00中山亮
横浜FMのキーマン、扇原貴宏Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

天野純の海外移籍でカギ握る存在

2019年7月5日、横浜FMは天野純がベルギーのロケレンに期限付き移籍することを発表した。天野は今季から背番号10番を背負ったチームの顔とも言える、簡単に手放せない選手だ。しかし、横浜FMがこの決断を下すことができたのは、背番号6・扇原貴宏の存在があるからだろう。

中学入学と同時に地元のクラブであるC大阪の下部組織に加入した扇原は、1学年上の丸橋祐介(現C大阪)、山口蛍(現神戸)、同学年の永井龍(現松本)、1学年下の杉本健勇(現浦和)らと切磋琢磨し、2010年にC大阪のトップチームへ昇格。2年目となる2011年途中からレギュラーポジションを確保すると、山口蛍とのダブルボランチはそのままロンドンオリンピック代表チームでも取り入れられ、本大会では4位。さらに2013年には東アジアカップの日本代表にも選出され、C大阪のみならずJリーグを代表する守備的MFへと成長していった。

扇原の特徴はなんといっても左足のキック。ミドルレンジ、ロングレンジの正確なパスをガンガン通す様はこれまでのJリーグではあまり見られなかったスタイルで、2013年のC大阪上位躍進の鍵となったのは、扇原のロングパスから裏に飛び出す柿谷曜一朗というホットラインだ。また、甘いルックスに似合わないほどの熱いハートも持っており、チームを引っ張るキャプテンシーも持ち合わせる、まさに将来を期待される選手だった。

どん底まで落ちた名古屋時代

しかし、C大阪がJ2だった2015年シーズンの最終盤にレギュラーポジションを失うことになる。

扇原は正確なパス供給という大きな武器を持っていることは間違いないが、この武器を活かすには当然味方の協力が必要となる。複数の選択肢と時間とスペース。この3つが揃ったときの扇原の左足は強力だ。しかしスピードがなく、ほとんどのプレーを左足で行うため、この3つがないとロンドン五輪準決勝のメキシコ戦で見せたように脆い。選択肢と時間とスペースが無いとボールをコントロールしきる前に顔をあげてしまい、ボールを失う場面が増えてしまうのだ。

そしてC大阪は徐々に扇原にこの3つを与えることができなくなってきていた。その結果2014年にJ2降格の憂き目に合うと、2015年終盤にはチーム内が混乱。扇原に強みを発揮できる環境を提供する以前に、戦い方そのものを作り上げることができなくなっていたのだ。

そして2016年も混乱は改善されることなく、扇原自身も出場機会が激減。シーズン途中で名古屋への移籍を決断する。しかし名古屋では怪我で長期離脱。これまでの順調なプロ生活とは一転、まさにどん底ともいえる状態だった。

横浜FMで得た、強みを発揮できる環境

翌2017年、そんな扇原に横浜FMからオファーが届いた。本人の言葉を借りると「僕が苦しいときにオファーしてくれた」。

おそらくクラブも当初は守備的MFのバックアッパーというつもりだったのだろう。シーズン序盤の出場はもっぱらカップ戦で、リーグ戦ではベンチに入ったり入らなかったりを繰り返していた。しかし徐々に途中出場で存在感を発揮しはじめると、シーズン折返しを前にポジションを確保するようになる。

さらにアンジェ・ポステコグルー監督が就任した2018年は第3節から先発出場を重ね、不動のキャプテン中澤佑二が負傷離脱すると、なんとキャプテンマークを巻くまでになっていた。

そして迎えた今季。シーズン序盤はベンチスタートが続いていた。しかし古巣C大阪戦敗戦をきっかけにシステムが変わると再びレギュラーポジションを確保。 負傷離脱もあったが当初の予定より前倒しで復帰し、現在は出場を重ねている。

先発出場試合は5連勝中

再び輝きを取り戻した扇原。その要因と言えるのはC大阪からの移籍直前にはなかった扇原が強みを発揮できる条件、選択肢と時間とスペースを横浜FMでは与えてもらえているからだろう。エリク・モンバエルツ、アンジェ・ポステコグルーと引き継がれた横浜FMには、扇原が強みを発揮できる環境がチームとしての仕組みの中に組み込まれていたのだ。

本人は「ポジショニングがよくなった」と語っているが、これは個人だけで解決できる問題ではない。チームとしての仕組みがあってこそ掴むことができたものだ。

システム変更以降、扇原が先発出場した試合は5連勝、15得点3失点と圧倒的な強さを見せている。横浜FMが2004年以降遠ざかっているリーグタイトルを獲得するためのキーマンは、背番号6・扇原貴宏だろう。

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