元日本代表・安田理大がトライアウト受験
Jリーグの長いシーズンが終わると多くの選手が契約更改に臨む。中には、一般企業に勤めていては決して得られないような高額のサラリーを受け取る選手もおり、やはりプロの世界は夢があると実感させられる。
一方で今季も「戦力外通告」を受けた選手もおり、そのコントラストは残酷だ。彼らは他クラブで現役の道を探るか、現役生活に別れを告げるしかない。
今回は選手の「セカンドキャリア」について考えてみたい。現在J1からJ3までおよそ1000人の選手がプレーしているが、その平均引退年齢は26歳と言われている。高卒後プロの世界に飛び込んだとしても、7~8年しかプレーできないという競争の厳しい世界だ。
Jリーガーの約80%が「引退後の生活に不安がある」と回答しており、引退後うつなどを患ったり、アルコール依存症に悩まされるケースもあり、多角度的な対策が必要と言える。
戦力外を受けた選手の受け皿の一つとなっているのが、先日行われた「Jリーグ合同トライアウト」だ。現役続行に望みをかける男たちの最後のアピールの場でもあるが、参加した選手の顔ぶれを見ると現在のサッカー界の情勢がよく表れているように思える。
今季、各クラブは新型コロナウイルスの影響で観客数を制限した状態でのリーグ戦開催を余儀なくされた。入場料収入は大幅に減少し、クラブの経営収支を圧迫。緊縮財政の中で、高額年俸の選手を保持しておくことは困難だ。
J2千葉に所属していた元日本代表・安田理大(33)は実績は十分だが、そうしたクラブの財政事情が反映された典型例と言えるかもしれない。
クラブ間やカテゴリー間の格差
また今回のトライアウトには若手選手も多く参加していたが、彼らにとっても今は難しい時代だ。若手育成には予算と時間がかかるが、前述のように各クラブとも厳しい経営を強いられているため、なかなかそうした育成にまで手が回らない状況だ。
出場機会のない選手にレンタルで経験を積ませる育成方法は主流となってきているが、レンタル先の環境が安定していなければ選手にとっては厳しい時間が続くことになるだろう。今回のトライアウトで所属先が決まればいいが、今は下のカテゴリーに移ってプレーを続けるなど、幅広い選択肢ができる時代となった。
しかし、このJリーグの三部構造こそが弊害を生んでいる。「サッカーの裾野を広げる」という発想の下、全国にJクラブは誕生してきた。だが、それはクラブ間格差という問題も同時に作ってしまった。
例えばJ3は「プロ契約選手の保有人数が3人以上」という規約の下、リーグ運営がなされており、多くの選手が他の仕事を掛け持ちながら戦っているという状況だ。なぜ、このような状況になってしまったのか。
それは、元々2014年までJ2の下のカテゴリーにはJFLしか存在しておらず、すなわちアマチュアだった。その中でもJリーグ参入を目指すクラブと、あくまで企業クラブの温度差が目立ち始め、新リーグの創設が議論されるようになった。このあたりがJ3発足の背景としてある。
しかし、プロ化したからと言っても、予算的にもクラブの格においても、選手全員をプロ契約にするのは不可能だろう。現在J3はプロとアマチュアの中間にあるカテゴリーという見方が正しいかもしれない。
年金制度など道半ば
前述したように、現役時代と引退後では選手の生活は様変わりする。監督や解説者など、表舞台でサッカーに関われる人間は日本代表を経験している選手やJ1で活躍した選手など、ほんの一握り。ほとんどの選手は別の道を選択していくことになる。
だが、そうした恵まれた環境にある選手以外を救済するサポートは行き届いていない。かつてはセカンドキャリアのアドバイスなどを行う「キャリアサポートセンター」という組織が存在したが、現役時代はチームの勝利や自身の活躍が最大の関心事であるため、引退後に無関心であるという選手も多い。利用者がいないこともあり、2012年に同機関はなくなってしまった。
2018年には「W杯出場選手に対し年金」という制度が考案されたこともあったが、悠々自適のセカンドキャリアを送れている選手を支援するようなシステムを考案すること自体が現状に即しておらず、まだまだ問題は多いと言えるだろう。他国やMLBなどの他競技に比べて遅れを取っていると言わざるを得ない。
しかし、そういった状況も少しずつ改善されてきている。近年では日本プロサッカー選手会が中心となり新たな年金制度の整備がされているという話も聞く。また、かつて日本代表として活躍した森島寛晃氏(セレッソ大阪)や、望月重良氏(SC相模原)がクラブの代表となるなどこれまでと違ったキャリアが形成されつつある。
当然、クラブには選手以外の役回りも必要で、引退後にクラブの代表や監督になる事例が増えていけば指導者としての間口は広がることが予想される。JFLをはじめとした多くのクラブが元選手を指揮者に迎えるなど、新たなチャレンジを始めており、改革の兆しは確実に見えてきている。まだまだ様々なことに取り組まなければならないこの問題。今後の動向を見守っていきたい。
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