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1年でJ2降格の徳島、J1復帰へチームもサポーターも成熟を

2021 12/7 06:00中島雅淑
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一部サポーターが不適切発言で入場禁止措置

2021年のJ1も全日程を終了した。早々に大勢が決した感のある優勝争いと異なり、残留争いは最終節までもつれこむ展開となったが、清水、湘南が残留を決め、徳島が1シーズンでJ2へ逆戻りすることになった。

史上最多4チームが降格を余儀なくされるという過去に例を見ない過酷なシーズンとなった残留争いの中で、残念だったのは「ピッチ外」で注目を集める出来事が起こったことだ。

11月27日にレモンガススタジアム平塚で行われたJ1第37節の湘南戦だった。同23日に急逝した湘南のMFオリベイラを追悼するセレモニーがピッチで行われた際に徳島のサポーターが不適切な発言をしたとする問題が発生。クラブが調査を行って発言者を特定し、Jクラブが主管する全ゲームへの無期限入場禁止という措置を取る事態にまで発展した。

湘南のイレブンがこのゲームに悲壮な覚悟で臨んだことは想像に難くない。対戦相手とはいえ、一部の心ないサポーターの言動によって両チームの選手や関係者、サポーターが気まずい思いをし、ひいては徳島の士気を下げることにもつながりかねない蛮行は許されるものではないだろう。

再発防止への苦い教訓

Jリーグ草創期に広島や神戸で監督を務めたスチュワート・バクスター氏はある取材で「日本人は欧州の悪いところばかりマネをする」と嘆いていたが、今回のような問題の背景にも日本は欧州に憧憬を抱く一面が影響しているのかも知れない。

イタリアなどでは人種差別発言やフェンスをよじ登ったり、発煙筒をスタジアムで焚くなどの行為がたびたび問題になってきた。愛するクラブへの愛情表現かも知れないが、そういった過激な発言や応援スタイルを模倣するサポーターがいるとしたら残念でならない。

欧州のスタジアムではチームへのブーイングはすさまじい半面、相手へのリスペクトも欠かさない。日本でもコロナ渦の制限がある中できちんとガイドラインを守って観戦している大多数のサポーターの行動は誇るべきものだ。

J創設から30年、各クラブで独自の応援スタイルが確立されてきている。欧州スタイルの模倣ではなく、自分たちの良さを進化させることが重要ではないだろうか。

一部のサポーターが結果として応援するクラブに迷惑をかけた今回のような行為は、リーグ全体で共有し、教訓として再発防止とさらなるスタジアムの治安維持に役立ててほしい。

チームは成長の跡示す

来シーズンからは再びJ2生活となる徳島だが、7年前、初のJ1挑戦となった際はわずか3勝しか挙げられず、ホーム・ポカスタでは未勝利、屈辱的な最下位だった。

しかし、今季は同じ降格でも10勝を挙げ、念願のホームでの勝利をサポーターと分かち合うこともできた。確実にクラブは成長の道を歩んでいる。

ダニエル・ポヤトス監督がコロナウイルスの入国制限の影響により4月まで来日できず、序盤は10年以上に渡りチームのヘッドコーチを務める甲本偉嗣氏が指揮を執ることを余儀なくされるという不運はあったが、もしチーム作りが順調に進んでいれば結果は違ったかもしれない。

降格は1試合の結果で決まるものではない。あらゆる要素を含め年間通してまだJ1で戦う実力がなかった、と審判が下ったということだろうが、残留を争うシーズン終盤でサポーターの一件があったことが後味を悪くしている。

クラブは05年にJ参入したばかりでまだ歴史は浅い。一つ一つの経験が財産だ。将来有望な若手も育ってきており、県民もクラブも1年でのJ1復帰を切望している。チームもサポーターも成熟し、3度目のJ1挑戦のその時はクラブ名の由来のようにリーグに「渦」を巻き起こしたい。

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