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J1鹿島アントラーズ、常勝軍団復権のカギは「ユース」と「レンタル」

2021 11/30 11:00中島雅淑
柳沢敦,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

5季連続で優勝から遠ざかる

欧州主要リーグでは創成期に栄光を勝ち取りながらも今は下部リーグでの奮闘を余儀なくされているクラブが多く存在する。

数十年に渡り戦力、経営を維持し続けるというのは並大抵の大変さではないことの証明だ。開幕から30年を迎えるJリーグにおいて、その牽引車として走り続けてきたのが鹿島アントラーズだ。しかし、近年は5季連続で国内タイトルから遠ざかるなど、その行く末には暗雲が垂れ込めている。現在のチームにはいくつかの課題が存在するのも事実だ。このまま過去のクラブへと風化していってしまうのだろうか。

かつての鹿島は「1点リードしたらしたたかに試合を終わらせる」「内容が悪くても必ず勝ち点を積み上げる」という言葉に集約されるように、とにかく常勝軍団という言葉がぴったりのタイトルホルダーだった。しかし、今季は福岡に実にリーグ戦15年ぶりの敗戦を喫するなど、ここまで11敗。この敗戦数では優勝争いに顔を出すのは難しいだろう。

今季の目標はACL出場権獲得のみ(川崎が天皇杯を制した場合のみ、リーグ4位チームに来季のACL出場権が与えられる)となってしまったが、上位チームとの差を感じるシーズンだった。最強の名を欲しいままにしたクラブに何が起こっているのか。

高卒新人を育成しても海外に流出

まだ日本がW杯も知らない時代から同クラブはタイトルを取り続けてきたが、その戦力強化の方針は主に高校選手権で活躍するような有力な高卒新人らを勝利の味を知るフロントが長年かけて育て上げる、というものだった。日韓W杯のメンバーを見れば分かるが、実に6人が鹿島からの選出である。これこそが鹿島の根幹を築き上げた。

しかし、その日韓W杯で決勝トーナメント進出を果たしたことにより、選手たちには世界がより身近な目標となっていく。中田英寿のイタリアでの成功も特筆すべき出来事だろう。選手として成長していくにはヨーロッパに渡り、厳しいリーグの中でもまれることは欠かせないと誰もが考えるようになっていった。

鹿島においてもこの「うねり」は例外ではなかった。徐々に黄金期を支えたチームは「解体」されていくことになり、解体とともに無冠時代は避けられないようになるのだ。

海外に引き抜かれる選手が多いということはそれだけ良質なタレントを多く抱えている裏返しでもあるのだが、この問題に解決策が見いだせないまま、台頭してきたのが川崎Fだ。それまでも「シルバーコレクター」と揶揄されていたが確実に力をつけてきており、15、16年はチャンピオンシップで敗れはしたものの、翌17年には悲願のリーグ初制覇。ここ5年で連覇を2回達成し、計4度のリーグチャンピオンに輝くなど、まさに無類の強さを見せている。

その川崎を率いているのが現役時代には鹿島でのプレー経験もある鬼木徹監督だ。通算対戦成績で唯一負け越している相手から何を学ぶべきだろうか。

川崎フロンターレの成功例

川崎の現在のスカッドを見てみると、ユースからの生え抜き、他クラブからの移籍、高卒からクラブに在籍する者と、その獲得ルートは非常に多彩だ。長年同クラブのスカウトを務める向島建氏は「クラブのやりたいサッカーや方針に合う選手を探してきて今がある」と語るが、現役時代に同クラブでプレーした経験があるだけに内部事情に精通している同氏のスカウト抜擢がはまったという言い方はできるかもしれない。

今や大学生に声をかけても「試合に出場することができないから」と断られるほど、陣容は充実している。やはり、タレントを途切れることなく輩出し続け、チームに継続的に組み込むというのは非常に大変な作業だ。 近年でもFW鈴木優磨、MF安西幸輝、DF安部裕葵らが海外に流出した鹿島だが、その穴を補填できるほどの新たな逸材は育ってきていない。

現在のJリーグには「ホームグロウン選手」の制度があるため(12歳から21歳までの間、3シーズン以上自クラブで登録していた選手を既定の人数トップチームに登録しなければならない制度)、かつてのように外から選手を取ってきて強化を図る、という方法は現実的ではないだろう。この制度の導入によりどのクラブも下部組織の強化に予算を投じることになるのがJリーグの近未来の姿だ。

柳沢敦監督の下でユース強化

鹿島もこうした流れを受けて、遅ればせながらホームグロウン選手の確保、ユースの強化に力を入れるようになってきた。今季からはOBの柳沢敦氏が監督に就任し、自らの経験を後進に伝えている。これからは自前で選手を育て育成の計画を立てていくことこそが強化の柱となるだろう。

それに加えて「レンタル移籍」も重要なポイントだ。鹿島はシーズン開幕時点でリーグ4位タイとなる7人もの選手をレンタル移籍で武者修行に出している。Jリーグの在り方も強化も「最適解」も時代によって変わっていくものだ。

下部組織からの生え抜きの選手と出場機会を求めてレンタル先で経験を積んだ選手が「古参」の選手と競い合う。そんな好循環ができるようになっていけば、選手の引き抜きにも耐えられる、かつてのような姿を取り戻すことはできるのではないか。今はそのメカニズム構築の途上だ。

ファンは21個目のタイトルを獲得する時をもはや渇望している。

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