17歳で最年少ゴール決めた「メッシ以上の才能」
今夏、日本代表FW大迫勇也、武藤嘉紀を獲得し、陣容をさらにグレードアップさせたJ1ヴィッセル神戸。この2人は例外として、近年のイニエスタ、ヴィジャ、ポドルスキなど、神戸の補強戦略は欧州で名をはせたものの峠を超えた選手たちを迎え入れることが多かった。
それらは純粋な強化としては疑問符のつくところもあり、三木谷浩史オーナーの現場介入も噂される中、集客のための広告塔として利用されている側面も否めなかった。当時獲得した選手の中で、今も在籍しているのはイニエスタただ一人だ。
そんな中、8月9日にクリムゾンレッドのユニホームに袖を通したボージャン・クルキッチという男の真価を、どれだけの人が知っているだろうか。この男こそ、かつては「メッシ以上の才能」と謳われ、バルサとスペイン代表の未来を嘱望された存在だったのだ。
「クルキッチ」という名前からわかるように、そのルーツをセルビアに持つ。元プロ選手の父親譲りの足元のテクニックの高さを武器に、若くしてバルセロナのカンテラでプレーすることを許されると、圧倒的な才能を見せつけて16歳にしてトップチーム昇格を果たし、翌07-08シーズンには、プリメーラデビュー。当時のクラブ最年少記録となった17歳53日でゴールを挙げるなど、バルサの歴史にその名を刻み込んだ(現在の記録はアンス・ファティ)。
プレッシャーからベストパフォーマンス発揮できず
しかし、前途洋々の未来が広がっていたはずの彼のキャリアは突如、狂い出す。
言うまでもなく、バルセロナは世界最高のクラブだ。フランコ独裁政権下、暗黒時代のカタルーニャ自治州において、人々の希望の灯として、まさに「クラブ以上の存在」として、バルサは存在した。全世界には15万人と言われるソシオがおり、彼らに支えられているクラブだ。
また、ピッチ上では伝統の4-3-3システムへの適応が求められる。これら全てがともすればプレッシャーとなる。デビューシーズンでリーグ戦10得点、さらにはEURO2008のメンバーにも選出されたボージャンだが、急激な環境変化の前に、投薬治療が必要な状況に追い詰められてしまっていた。
このような状態でベストなパフォーマンスを披露することはできない。11年限りで愛するバルサに別れを告げ、新天地にはセリエA、ローマを選んだ。
それでもボージャンがキャリアを好転させることはできず、監督交代やレンタル条項など、運にも見放されたとはいえ、所属先を変え続けることになった。ついには欧州を離れ、MLSモントリオールでもプレーしたが、20年限りで退団した。
イニエスタと再共演で輝き取り戻すか
彼がこの流浪の旅路の中で見つけたものはなんだろうか。
それは若かりし頃、周囲の重圧に押しつぶされて自分を見失ってしまい、ついにはプレーする機会も徐々に減らしていったという苦い経験。選手はピッチに立たなければ、評価されることはない。たとえ、どのような環境、英2部・ストークでも、モントリオールでも―。
プレーする機会を求め続けたことにより、「ガラスのハート」と揶揄された精神力は強靭なものに生まれ変わったことだろう。
運命の悪戯か、この極東のリーグにやって来ることになったボージャン。かつてバルサユースでも共にプレーしたイニエスタが中盤の支配者として君臨している。31節の浦和戦では初ゴール、32節の福岡戦では初スタメンを果たした。ここから真価を発揮したい。
ボージャンの成功はこれまでのクラブの補強の方向性に変化を与えうるヒントになることだろう。まだ31歳。これまでのキャリアは波乱に満ちたものだったかもしれないが、神戸を終着駅とすべく、かつての盟友とハーモニーを奏でる。
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