和田拓也を筆頭に横浜F・マリノス勢が上位へ
選手の“走り”を数値化したJリーグのトラッキングデータは、試合の新しい楽しみ方を提供し、定着している。そこで、2020年シーズンの同データを走行距離とスプリント回数に分けて分析し、移籍の動向を交えながら今季J1についても言及したい。今回は走行距離データの「選手(試合別)」「チーム(試合別)」「チーム(平均)」の3項目のランキングに沿って話を進めよう。
「選手(試合別)」は、選手個人が1試合にどれだけ長い距離を走ったかを見るランキング。中盤の運動量豊富な選手が多く上位を占めたなか、1位に初めて輝いたのは横浜F・マリノスのDF和田拓也。DF登録だが、実際にはボランチでのプレー機会が多かった和田は、18・19年には一度も20位以内に入っていなかっただけに“大穴”だった。
また、ボランチ喜田拓也が5位、攻撃的MF天野純が6位とF・マリノス勢が上位にランクインしている。
19年の同部門1位・奥埜博亮(セレッソ大阪)は、惜しくも2位に終わったが、4位にも顔を出している。昨季リーグ4位のセレッソで、全試合に出場したタフガイは不可欠な存在だ。
“走るサガン鳥栖”が印象通りの結果を出す
続いて「チーム(試合別)」は、1試合における出場選手全員の走行距離の合計となる。19年に同部門で1位に君臨したF・マリノスを3位に抑えて、首位を奪取したのはサガン鳥栖。加えて2位、4位の計3試合がトップ5入りを果たしている。
昨季、若手プレーヤーを数多く起用し“走るサガン”を印象付けたが、数字にも表れた。なお、同ランキング5位・横浜FCの対象試合は、1位と同じ第31節の横浜FC-サガン。両チーム合計260.708kmも走り切った死闘の末、結果は1-1のドローに終わっている。
「チーム(平均)」は1シーズン34試合の平均走行距離となるだけに、1年を振り返る上で重要な数字と言えるだろう。この部門で2年連続Vを達成したのが、一昨年のリーグチャンピオン、F・マリノスだ。2位のサガンは一昨年9位から一気に上昇、大分トリニータは19年と変わらず3位の座へ。4位にはJ2からの昇格組・横浜FCが入り、リーグ3位の名古屋グランパスがトップ5へ滑り込んだ。
着目したいのは、昨季上位チームの平均走行距離が一昨年に比べて大幅に伸びていること。20年4位の横浜FC(117.201km)までが、19年1位F・マリノスの記録116.647kmを超えている。
これは昨季導入され、2人交代枠が増えた「5人交代制」や、前後半の途中に設けられた「飲水タイム」の影響だと思われる(21年の交代制、飲水タイムは未定)。
王者の新戦力シミッチは無駄走り厳禁?
ここまで不思議と一度も名前が挙がっていないチームが、昨季J1優勝を飾った川崎フロンターレ。「チーム(平均)」の順位は、なんと18年から3年連続最下位(18位)だった。「選手(試合別)」のトップ20を見ても、3年連続で誰一人名前が挙がっていない。
一方、一昨季王者のF・マリノスは、2年連続で同部門1位だったにも関わらず、昨季は9位と低迷。ただし、「選手(試合別)」を昨季と一昨季で比較してみると、トップ20入りは20年が延べ6人とJ1最多だったのに対し、19年は0人。この数字だけをみると、走行距離の突出した選手が少ない方が、むしろ良い成績を得られるような気がする…。
昨季リーグ2位のガンバ大阪を見ても、走行距離ランキングは8位だったが、「選手(試合別)」の20位以内は11位の井手口陽介のみ。同3位グランパスも走行距離チーム(平均)は、一昨季の12位から5位へアップしたものの、選手個人の走行距離20位以内は8位のMFジョアン・シミッチだけと少ない。
そのシミッチは今季、“走らない王者”フロンターレへの移籍が決定。実力派ボランチではあるが、足よりボールが動くパスサッカーのなかで、“無駄走り”には注意しなければいけない。
同じくボランチの選手で、今季サガンからセレッソへ移籍したMF原川力は、19年「選手(試合別)」で18位と技巧派でありながら運動量も多い。昨季の走行距離チーム(平均)9位だったセレッソは、奥埜に次ぐ有能なタフガイを獲得したと言えるだろう。
【関連記事】
・1/5の確率で降格 史上最も過酷な2021年のJ1で優勝争いのカギを握る3チーム
・川崎フロンターレ中村憲剛、テスト生からバンディエラへの足跡
・三浦知良がクビになった日…今こそ見習いたいカズの逞しさ