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女子サッカー驚異の18歳・谷川萌々子 アジア大会Vに導いたワールドクラスの才能がパリ五輪狙う

2023 10/19 06:00大塚淳史
サッカー女子日本代表の谷川萌々子(左),ⒸJFA
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谷川萌々子(左),ⒸJFA

パリ五輪アジア2次予選の代表合宿にトレーニングパートナーとして参加

パリオリンピックアジア2次予選に臨むサッカー女子日本代表が10月17日から、千葉・JFA夢フィールドで合宿を行っている。招集メンバーは7、8月にあったワールドカップ(W杯)ニュージーランド大会のメンバーでほぼ固められた。

10月6日の決勝で北朝鮮を破って金メダルを取った杭州アジア大会のメンバーからは、W杯のメンバーも兼ねた千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)と追加招集された中嶋淑乃(サンフレッチェ広島レジーナ)だけと意外な選考となった。

一方で興味深いのが、10月20日から22日にトレーニングパートナーとして参加する18歳の谷川萌々子、17歳の古賀塔子のJFAアカデミー福島所属の2人だ。ともに杭州アジア大会のメンバーで、主力として優勝に貢献した。

2人ともW杯でもトレーニングパートナーとして帯同していたが、今回は五輪アジア2次予選であり、そもそもW杯以外でトレーニングパートナーをリストに掲載して“発表”するのは異例のこと。池田太監督の期待を感じさせた。

アジア大会決勝で見せたスーパーゴール

ついに谷川が知られたか―。そう思わされたのが、杭州アジア大会決勝で見せたプレーだった。

前半10分に日本代表は先制したが、同38分に北朝鮮に同点ゴールを献上。その後、後半半ばまで北朝鮮が押す展開が続いていた。しかし、後半21分、左CKを得て谷川がキッカーに。右足で蹴ったボールはライナー性の弾道で大澤春花(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)の頭にドンピシャで合わせて2対1。谷川が勝ち越し弾を演出した。

そして、圧巻だったのがその直後のプレー。後半24分、谷川が相手ペナルティーエリア外の右側附近でボールを受けると、北朝鮮の選手のプレッシャーを右足で切り返してかわし、ワンステップで左足を強振。ボールは美しい弾道を描いて北朝鮮ゴールネットに突き刺さった。

男子の試合を含めても、なかなかお目にかかれないスーパーゴール。これで実質勝負が決した。

谷川は決勝前の段階で既に4得点の活躍をしていたが、杭州アジア大会のサッカー女子の決勝は、TBS系で午後9時から生中継されていた。それもあって、より多くの人が谷川のプレーを目にしたのだろう。18歳への驚きの声がSNS上で飛び交っていた。

谷川は右足でも左足でも遜色なく強く蹴れる上に、キックのレンジが広い。視野が広いので正確なミドルレンジパス、ロングレンジパスを繰り出せる。テクニックも持ち合わせており、ドリブルでもボールを運べる。そして、身長169cmと体格も申し分ない。杭州アジア大会ではボランチとして攻撃の起点になっていた。

サッカー女子日本代表の谷川萌々子

ⒸJFA

センセーショナルだった昨年U17W杯インド大会でのプレー

谷川が一躍注目を浴びたのが、昨年のU17W杯インド大会だった。女子選手とは思えないスーパーゴールを連発。筆者はこのインド大会で初めて谷川のプレーを見たが、驚愕の連続だった。YouTubeやTwitter等でインド大会の谷川のゴールシーンを見れば理解できると思うが、とにかくシュートが素晴らしい。

自身も「左右のパワー差なく蹴られるのがストロングポイント」と話すように、試合では右足からも左足からも強烈なシュートを放ち、男子選手でもシュートをためらう距離でも躊躇なく強烈なミドルシュートを蹴っていた。

圧巻だったのが、準々決勝でのスペイン戦での先制点となるゴールだった。相手のクリアで浮いたボールを谷川が拾うと、その場で左足を一閃。距離にして25~30メートルはあったのだが、そのまま空気を切り裂くかのごとき弾道でスペインのゴール右上に突き刺した。さすがに唖然とさせられた。

この大会でもうひとつ印象的だったのが、インサイドキックのシュートだった。ペナルティーエリア外から何度も左足のインサイドキックで地を這うようなシュートを蹴っていて、予選グループのフランス戦ではゴールを決めている。

ペナルティーエリア外からインサイドキックでシュートを狙う女子選手は目にしたことがなかっただけに、谷川のインサイドキックで狙う意識に感心させられた。

スケールの大きいプレーを見て、その時点でまだ17歳だったとはいえ、W杯ニュージーランド大会のメンバー入りを十分狙える才能と実力を感じさせた。U17W杯はスペインに敗れてベスト8で終わり、当時行われたオンライン会見で谷川にW杯代表入りしたいか問うと、はやるこちらの質問とは裏腹に「パリ五輪に出場したいという目標はあります」とピンと来ていなかった。

また、将来の目標として「バルセロナに入ってチャンピオンズリーグで優勝すること」(バルセロナは女子も強豪)と明かしていた。技術やフィールド上での存在感は、2011年W杯で優勝に導いた澤穂希を思い起こさせた。

谷川の武器、強烈なシュートが生み出された理由

今年5月のU19代表合宿で取材した際、谷川に長い距離でも構わずシュートを狙う意識を持てているのか問うと、幼い頃からの父の教えだと答えてくれた。

「サッカーを始めた4、5歳頃から、お父さんから『まずシュートを打たないとゴールを決められない』とシュートの意識の大切さを教えてもらっていたから、シュートの意識は小さい頃からあったと思う」

そうやって幼い頃からシュートを打つ意識を育んだ結果が、力強いシュートを打てる筋力を身につけ、男女問わず多くのプレーヤーにある“ロングシュートへのためらい”がないのだろう。

谷川萌々子

筆者提供

プレーの場は実質3部リーグ

谷川が所属するのはJFAアカデミー福島であり、普段試合するリーグもなでしこリーグ2部と、WEリーグから数えると実質3部リーグ。「今置かれている環境で全力でやっていく」と話していたが、なかなか目に触れる機会はない。

とはいえ、谷川の才能が放っておかれるはずがない。JFA関係者から「欧州視察に行った際、トップクラブの関係者から谷川はどうしているのかと聞かれましたよ」という話を聞いた。谷川の存在は日本より先に海外で注目され始めており、今年1月にはバイエルン・ミュンヘンの練習に1週間参加している。

「1週間くらいトップチームの練習には参加せず、セカンドチームの練習に参加させてもらった。フィジカルが強い選手が集まっていて、その中で自分が通用する部分も感じられた」と手応えを口にしていた。その後のW杯代表メンバーでは選外だったが、帯同メンバーに選ばれると、大会前の代表合宿では見事なシュートを決めるなど存在感は際立っていた。

そして今回のアジア大会での活躍ぶり。間違いなく、なでしこジャパンの中核に入り込んできている。パリ五輪も十分視野に入るだろう。

一方で、アジア大会では課題も見えた。攻撃面のセンスは圧倒的だが、ボランチを務めるには守備がまだ甘かった。球際の勝負には強いが、相手ボールになった際、守備に戻るのが他選手に比べて緩かったりとまだ守備には改善の余地がある。

ただ、そういった課題を差し引いても、谷川のプレーは極上だ。まだ18歳。これから10年は間違いなく日本女子サッカーの中心として君臨するのは間違いない。まだプレーを見たことがない人は、早く目にすることをお勧めする。

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