スペインが実力通りに優勝&ポゼッション率1位
FIFAワールドカップにおいて、ボール支配率と成績は比例するのか。それを知るために、直近3大会のベスト8各チームの平均ボールポゼッション率を調べてみた。下記の3つの表には納得できる数字、予想外の数字が入り混じり、大会ごとの傾向が透けて見える。
また、当時の日本代表の同スタッツも調べて、8強チームと比較。「ベスト8が目標」の森保ジャパンを2022年カタール大会で観戦する上で、参考にしてほしい。
スペインが初優勝を飾った2010年南アフリカ大会。「ティキ・タカ」と呼ばれるショートパスを小気味よくつなぐ攻撃サッカーを展開したスペインは、2008、2012年のUEFA EURO(ヨーロッパ選手権)を連覇。黄金期の真っただ中、優勝候補だっただけに、ポゼッション率1位での優勝は当然の結果のように思える。

同スタッツのトップ3はスペインのほか、ラテン系のタレント軍団が占拠。2位のアルゼンチンは準々決勝でドイツに0-4と大敗を喫したが、ボール支配率では53%と上回っていた。3位のブラジルはドゥンガ監督がリアリティを追求したため、技巧派よりもアスリート系の選手が重宝されたが、それでもミスの少ないパス回しを見せていた。
8強チームの中で一番ボール支配率が低かったのがウルグアイ。予選ではプレーオフで出場権を獲得しており、大会前の下馬評は高くなかった。それでもディフェンスに6、7枚を敷き、攻撃は大会得点王に輝いたディエゴ・フォルランとルイス・スアレスの強力2トップに託す堅守速攻スタイルが確立。古豪が40年ぶりの4強入りを果たした。
日本もウルグアイ同様、割り切って守りから入る戦術に大会前から取り組み、ダブルボランチの長谷部誠、遠藤保仁+アンカー阿部勇樹のトライアングルが機能。ただし、PK負けに終わったラウンド16はパラグアイ相手にポゼッション率42%、平均でも42.58%と全32カ国中、下から2番目の記録に。8強入りを狙うには非力だったと言わざるを得ない。
優勝のドイツ以外、支配率上位国が8強入りを逃す
14年ブラジル大会もポゼッション率1位の国、ドイツが24年ぶり4度目の世界一となる。攻守の連動性が高く、圧巻の速さ・強さを見せつけ、前回大会のスペイン同様に文句なしの優勝だ。準決勝でブラジルを7-1で粉砕した歴史的大勝も印象深い。

ほかのボール支配率の上位国は、2位スペイン(55.99%)と3位コートジボワール(55.49%)をはじめ、グループステージ(以下GS)で敗退したチームが多く占める。6位だった日本は、1分け2敗で1勝も挙げられなかった。
2戦目のギリシャ戦では相手が退場者を1人出したこともあり、日本がポゼッション率68%と圧倒。これが支配率ランク上位浮上の要因となる。3戦目もGS突破を決めていたコロンビアが主力を温存したため、序盤から攻勢に出た日本が支配率では56%だった。
そのコロンビアと共にボール支配率50%以下でベスト8入りを達成したのが、アウトサイダーのコスタリカ。大会前にエース、FWアルバロ・サボリオが練習中の骨折で離脱するなど、戦力的に厳しかった。しかしながら、ラウンド16の対ギリシャ、準々決勝の対オランダの両ゲームではPKまでもつれる熱戦を演じ、しぶとさが光った。
W杯に地殻変動、ボール支配率19位のフランスが頂点へ
ポゼッション率の上位国が優勝争いに絡まない傾向は、2018年ロシア大会でより鮮明になる。20年ぶり2度目の優勝を遂げたフランスの平均ポゼッション率は5割以下。全体で19位と“中の下”の数字だったから驚く。
当時、ディディエ・デシャン監督が率いたフランスはお家芸のシャンパンサッカーを封印し、守って高速カウンターを仕掛けるW杯を勝ち抜くための現実路線を歩む。4対2のスコアで打ち合いとなった決勝のクロアチア戦も、ポゼッション率は39%止まり。主導権を手放してでも結果にこだわり、頂点に立ったのだ。

ボール支配率1位のスペイン(69.09%)と3位のアルゼンチン(63.94%)はラウンド16で敗退。前回優勝国の2位ドイツ(66.93%)に至っては3戦目で格下・韓国に負け、同国初となるGS敗退の屈辱を味わう。
逆に同スタッツが30%台ながら8強入りしたのが、開催国ロシアとスウェーデン。ロシアはラウンド16でスペインと戦い、攻められ続けポゼッション率は26%まで落ち込むも、粘りに粘ってPK戦をものにした。
スウェーデンは持ち前のフィジカルを生かし、守備力を強化。後手に回る試合が多かったものの、準々決勝までの5試合で3試合の完封勝ちを収めた。
一方、日本はGSの3戦すべてボール支配率で相手を上回り、ラウンド16でベルギーと対戦。大会通算の平均支配率ではベルギーより一つ上の11位だったが、試合ではタレントの質で一枚上の強豪に2-3の逆転負け。ボール支配率も44%対56%で力が及ばなかった。
支配率が向上した日本の進むべき道は…?
直近3大会におけるベスト8チームの平均ボール支配率をはじき出すと、2010年南アフリカ大会が52.58%、2014年ブラジル大会が51.20%、2018年ロシア大会が48.34%。大会ごとにポゼッション率は下がっており、ロシア大会ではついに50%を割ってしまった。
ボール支配率はビッグデータの一つに過ぎないが、アクションサッカーからリアクションサッカーへ、世界の潮流の変化が考えられる。あるいは試合のイニシアチブを取っても決定力不足により、勝ち切れないチームが増加傾向にあるのかもしれない。
いずれにせよ、ポゼッション率で上位に躍り出ても、ベスト8入りできる保証がないのは確かである。日本は直近2大会では守備偏重ではなく、自らアクションを起こすスタイルを選び、支配率のデータ自体はベスト8チームの平均値を超えた。
ただし、今秋のカタール大会ではGSでドイツ、スペインと同じ組に。強国相手に日本がポゼッション率で勝つのは至難の業だろう。日本はこれまでの流れを汲んで主導権争いを欧州列強に挑むのか。それとも流れに逆行し、12年前の南アフリカ大会時のように守備に軸足を置くのか。森保一監督が思い描く大会本番の青写真が気になる。
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