尻に火がついた日本と慢心したオーストラリアの差が出る
10月12日夜、W杯アジア最終予選でサッカー日本代表はオーストラリア代表と激突し、2-1で勝利を収めた。
10月8日のサウジアラビア戦は、柴崎岳(レガネス)の不用意なバックパスから失点を招いて0-1で敗北。日本は1勝2敗というかつてないピンチに陥った。解任論が一気に高まり、“尻に火がついた”森保一監督は、オーストラリア戦で田中碧(デュッセルドルフ)を起用し、日本のフォーメーションを4-2-3-1から4-3-3に変更した。
一方オーストラリアは、このW杯予選で11連勝。前評判が低かった日本に負けるはずないだろうと、少なからず慢心があったのではないか。試合がいざ始まると、保守的な森保監督の急な戦術変更にあきらかに慌て、守備をハメられて混乱していた。
オーストラリアは後半にやや修正してきたが、右サイドで躍動した伊東純也(ヘンク)、田中、遠藤航(シュトゥットガルト)、守田英正(サンタ・クララ)の3ボランチ、途中出場でオウンゴールを誘う値千金のシュートを放った浅野拓磨(ボーフム)らの活躍もあり、日本が激戦を2-1で制する。これで10月の2連戦は、1勝1敗で幕を閉じた。
新しい発明“可変ボランチ”田中碧
オーストラリア戦で田中が見せたMOM級の活躍は、日本代表にとって久々の希望だ。
東京五輪時の田中は、DFラインの前、通常のボランチの位置からビルドアップに参加していたが、相手チームが田中の重要性に気がついてマークを厳しくすると存在感が薄れていった(試合に出ずっぱりでパフォーマンスが低下した面もあるが)。
12日のオーストラリア戦では、田中は底のDFラインまで下がり、吉田麻也(サンプドリア)、冨安健洋(アーセナル)と並んであたかも3バックを形成(一時的に3-4-3に近い形になる)。フォーメーションを可変させ、この位置から攻撃のタクトを振った。全盛期の遠藤保仁(ジュビロ磐田)のように時間と空間を操れる田中は、低い位置でボールを多数触り、チーム全体のリズムを向上させた。
田中が3バックの1枚になるメリットは他にも出た。4バックの両翼を担当していた長友佑都(FC東京)と酒井宏樹(浦和レッズ)が押し出されるように高い位置を取れるようになり、サイド攻撃に厚みが出た。
田中はビルドアップでは一番底のDFラインからパスを供給し、チャンスと見ればすかさず最前線に顔を出す。相手DFからすれば、底の位置から攻撃にフリー参加し、どこに顔を出すか分からない田中は相当捕まえにくいはずだ。
前半8分、日本の変貌に混乱するオーストラリアを尻目に、田中はペナルティエリアに侵入してノーマークでボールを受け、先取点を奪取する。その後守備でも強度が強く、攻守に冴え渡っていた。
ディフェンスラインからのビルドアップ、中盤での守備、後方からの攻撃参加。田中が縦横無尽に動き回ることで、今までの日本代表にないダイナミックさが生まれた。田中の役割を森保が全てオーガナイズしたのか、はたまた選手間で話し合って決まったことなのか定かではない。もしこれが森保監督の発明であるなら称賛に値する戦術だ。
くすぶる若手……選手の状態を正確に見極められない森保監督
ただし不安もある。森保監督が田中を抜擢できた理由の一つが、サウジアラビア戦の柴崎の大チョンボだ。
本来、選手のコンディションやパフォーマンスを見極めるのは監督の仕事であり、柴崎の出来よりも監督の采配が非難されるべきではあるが、それはさておき、森保監督は柴崎をスタメンから外した。
だが柴崎のみならず、代表入りするロシアW杯経験者たちは、徐々にパフォーマンスに陰りが見える。大迫勇也(ヴィッセル神戸)はフィジカルとスピードがやや低下し、ボールキープの役目を担えなくなってきた。オーストラリア戦では難しいボールキープに複数成功していたが、オーストラリアDF陣の足の遅さに助けられた面は否めない。
全盛期のフィジカルに及ばない長友が担当する左サイドは、右サイドに比べて明らかに狙われている。オマーン戦の失点もオーストラリア戦のピンチも、左サイドがきっかけだった。
大迫と同じ働きができるオナイウ阿道(トゥールーズ)は、フランス2部で得点を量産するなど目覚ましい活躍を見せているだけに、オーストラリア戦では先発で試してほしかった選手の1人だ。
しかし使われなかった。長友の代役候補である中山雄太(ズヴォレ)も、まだ短時間しか使われない。
森保監督は選手の実績や知名度にとらわれず、パフォーマンスを正確に見極めた選手起用・交代が得意ではない。それがサウジアラビア戦の“事故”を招いた。柴崎に明確なミスが出たからこそ、内外の声に臆することなく、ようやく田中の先発起用に踏み切れた感がある。
実績があるから安心。結果を左右する大きなミスをしないかぎりOK。若手は実績がないから怖い。森保監督の采配は、そんな日本人らしい思考をやや感じさせる。ロシア組は一定のパフォーマンスが出ている限り、使われ続けるだろう。ただし、この先のW杯最終予選で低パフォーマンスの選手による大失態が起きれば、予選敗退の確率は一気に上がってしまう。
4-3-3を対策されたときのプランB、プランCはある?
オーストラリア戦ではたしかに4-3-3がハマった。これは3ボランチの守備力もさることながら、オーストラリアのFWがビルドアップ時の田中をほぼノーマークにした点も大きい(この点にオーストラリアの油断、情報漏れが感じられた)。
田中を入れた4-3-3が初見だったオーストラリアは面食らったが、再び相まみえるオマーンやサウジアラビアは警戒を強め、対策を練ってくるだろう。オーストラリアも同様だ。
森保監督は、相手監督に対策されると弱い。負けたオマーンやサウジアラビアにも徹底的に対策され、カウンターの戦術を打てなかった。日本代表が採用した今回の4-3-3も、例えば5バックにして両サイドを締め(伊東らが走り込むサイドのスペースを埋める)、かつ田中をFW陣が徹底マークして日本のリズムを崩す、なんて方法も考えられる。
オーストラリア戦の勝利を受けて、日本サッカー協会の田嶋幸三会長が体制継続を明言した以上、森保監督は指揮を続ける。ただし「オーストラリア戦が良かったから」と4-3-3に固執すれば、森保ジャパンは最終予選終盤に再び勝ち星を失い始めるかもしれない。やっと明るい兆しが見えた今だからこそ、4-3-3を攻略された際のプランB、プランCを用意してほしい。
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