ベンゲル氏がオフサイド判定の自動化を示唆
サッカーの競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)は11月25日、来年3月の年次総会での改正案について話し合った。公表された資料に注目のオフサイドルール変更に関する記載はなかった。
しかし、現在FIFAの要職にあるアーセン・ベンゲル氏は10月の会見で、オフサイドの判定に向けた何らかの新テクノロジーが準備中であることを示唆。正確な判定を下すことに加え、現行のゴールライン・テクノロジーのような迅速さもその特徴だという。
「カタールW杯ではオフサイド判定が自動化される可能性がある」と続け、詳細の明言は避けたが、テクノロジーのさらなる進歩をうかがわせた。
とはいえ、これは進歩だろうか。オフサイドルールやVAR(ビデオアシスタントレフェリー)に関しては多方面から賛否両論があり、今年の初めにはオランダ代表やACミランのレジェンドで現在はFIFAの技術委員を務めるマルコ・ファンバステン氏が“オフサイド廃止案”という独自の理論を展開した。
「今のサッカーは9人や10人のDFがゴール前を固めるハンドボールのようだ。オフサイドがなくなればより多くの得点機会が生まれるだろう」とコメントしている。これらの背景には現在のサッカーがVARと過度にかかわっており、それが選手たちのプレー、特に心理的に影響を及ぼしていることがある。
ロシアW杯で歴代最多PK
そもそもオフサイドとは「待ち伏せ禁止」で、19世紀半ばのイングランドで統一したルールが作られた頃から存在している。1925年頃には現在のルールにほぼ近いものに改定されるが、転換期となったのが1990年のイタリアW杯だ。「史上最も退屈な大会」と揶揄された同大会はFIFAに様々な「得点を生み出すルール改定」を行わせる契機となる。
今では一定の足下の技術が要求されるのが当たり前のGKも当時はバックパスを手で扱うことが可能だった。全ては守備者に制約を課し、より得点が生み出される機会を作るためだ。オフサイドルールも以降細かく改訂され、今では「体の一部でも最終ラインより前に出ていた場合」にオフサイドを取られる。
とはいえ、つま先が出ていたか、胴体が出ていたかということを試合中に肉眼で判断することは不可能だ。もはや現代のサッカーはVAR抜きには語れなくなってしまっているが、W杯で初めてこのシステムが導入されたロシア大会ではレフェリーがモニターチェックをして、判定が覆るシーンがおなじみとなり、歴代最多のPKが与えられた。競技内容に影響を与えていることは疑いようのない事実だ。
これは本当に進歩と呼べるのだろうか。最近は様々なリーグ戦でもVARはおなじみとなったが 何プレーも前に戻ってビデオルームと交信し、その結果PK判定になるというシーンはよく見られる光景になった。
しかし、サッカーはメンタル面が大きく左右するスポーツである。現在進行しているプレー内容と関係なく、突如与えられた「副産物」をキッカーもGKも通常の精神状態で受け入れることはできない。より正確なVAR経由のPKに失敗が多いのは決して気のせいではなく、心理面が影響しているのではないか。
「悲劇」を起こさないためのVARが…
2010年南アフリカW杯決勝トーナメント1回戦のイングランド対ドイツにて1点をリードしているイングランド代表MFフランク・ランパードの放ったミドルシュートがクロスバーに当たって真下に落下。ゴールラインを超えたかに見えたが、判定はノーゴールだった。
結果、流れは変わり、ドイツは4点を奪って準々決勝に進出した。リプレーを見ると完全にラインを超えているように見える。もし、ゴールが認められていたら、というスリーライオンズのイレブンの悔しさは筆舌に尽くしがたかったことだろう。
こうした事例は氷山の一角たが、その後ゴールラインテクノロジーの導入など、悲劇が起こらないための運用が始まった。
しかし、今度は過度なテクノロジー依存により、サッカーという競技が持つスピード感が失われたり、かかとが超えていたらオフサイドか否かいう不毛な議論を尽くすことの是非が問われ始めている。
新たなオフサイド判定がどのようなものかは分からないが、現代のサッカーは魅力をどんどん失い始めているように思える。その主犯はより得点が生まれるようにルール改正していき、新たなファンの獲得による利益優先主義が垣間見えるFIFAではないだろうか。
【関連記事】
・サッカーのオフサイドルール変更で得点は増える?全試合VARの導入必須
・切実なJリーガーの引退後…セカンドキャリアのサポート態勢充実を
・強すぎる青森山田の弊害、高校サッカー界は「無敵の1強」より底辺拡大を